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海水魚飼育における雑談6



7.ブラインシュリンプを育てる


ブラインシュリンプとは

ショップでよく売られているブラインシュリンプの乾燥卵は,海水魚や淡水魚の繁殖を行う方にとってはポピュラーなものでしょう。しかし大抵の人は孵化後すぐに餌として使うだけで,ブラインシュリンプ自体を育てたことのある人はあまりいないのではないでしょうか。尤も成長させても成体の寿命は短く1ヶ月も生きていないので,育てても楽しいという事もないかもしれません。

ブラインシュリンプは学名を Artemia salina といい,日本では瀬戸内海沿岸の塩田で発見されているそうですが,日本に生息しているかどうかは不明です。分類学上はエビなどと同じ節足動物門甲殻亜門ですが,綱の段階で分かれます(エビ類は軟甲綱ですが,ブラインシュリンプはカブトエビやミジンコが含まれる鰓脚綱に属します)。したがってブラインシュリンプはエビの仲間というよりは,むしろミジンコの仲間という方が適切です。

体長は成体でも10mm程度で,頭部に突出した1対の複眼と2対の触覚を持ち,頭の中央に単眼を1つ持っています。雄の第2触覚は大きな把握器になっており,交尾の際に雌を捕まえることに使われます。

しかし何と言っても面白いのは,胸部の各体節に1対ずつある鰓脚です。ブラインシュリンプはこの鰓脚を用いて呼吸,運動,摂食を行うのです。

鰓脚という言葉通りに,この脚には特殊な鰓があります,つまりブラインシュリンプは脚で呼吸をする動物なのです。無論,陸上生物の昆虫は腹部にある気門という器官で,またエビ類は頭胸甲内の歩脚の近くにある鰓で呼吸をしますから,節足動物で口から呼吸をするものは少ないのですが,その中でも変わり種と言えるでしょう。

摂食の場合,この鰓脚を動かすことで水流を起こし,水中の微細な餌(原生動物や有機物)を鰓脚の毛で濾して口元に運び体内に取り込みます。

養殖の場合,植物プランクトンやパン酵母(ドライイースト等)を餌にすることで,孵化から約2週間で成体になるそうですが,普通に人工海水(天然海水でも)を使って飼った場合は1ヶ月程度かかります。これはブラインシュリンプ本来の生息環境が6%程度の塩水であることから,通常魚を飼育する海水濃度では低すぎるためかもしれません。

なお,最初にお断りしておきますが,これから述べる飼育法はあくまで私の経験から書いているものです。皆さんが試された場合,異なる結果となる可能性もありますのでご注意ください。



飼育法

●孵化

孵化に関しては特に記しませんが,大抵のショップで乾燥卵が売られていますので,これを購入します。専用の孵化器なども売られていますが,孵化後の幼生を取り出しやすいかどうかと孵化率に差があるぐらいなので,普通の小型プラケースに海水を入れ,OF水槽なら濾過槽やサンプに浮かべて固定し,撹拌用にエアーレーションを行えば後はやる事がありません。

夏場であれば海水を入れたプラケースにエアーレーションを行い,室内に放置しておいても翌日には孵化して幼生が多数泳いでいるでしょう。冬場の場合,私の経験では10℃以下の水温では孵化しないか,極端に孵化率が低くなりましたので,濾過槽に浮かべるなり,センサー・ヒーター一体型の電子サーモで保温するなりした方がよいでしょう。孵化に適した水温は20〜28℃程度です。エアーレーションは,行った方が孵化は早まるので,皆さんの判断で選択してください。 



●飼育

孵化した幼生は,そのままでは体内に蓄えていた養分を使い切り死んでしまいますので,飼育用の容器に移す必要があります。その飼育槽ですが,基本的には深さはそれ程必要ありません。しかし底面積は広い方が適しています。

したがってプラケースを使う場合は,あまり小さいものではなく大きめで背の低い容器が適しています。なぜなら,10cm以上の水深で飼育した場合,ブラインシュリンプの生存率が非常に低いのです。

この理由はよくわかりませんが,私の3回の実験では,水深4cmと12cmで比較した場合(容器は同タイプのものを使用),それ以外の環境は極力揃えたものの15cmの方は3回とも1週間程度でほぼ全滅してしまいました。

4cmの方は,3回とも3〜4週間程度で数十匹が成体となり,その後数は少ないですが繁殖もしていました。3回の実験中,最も成長が速かった6月半ばから始めた実験のデータを示します。

《-16日》

飼育ケースを購入。ニッソーのプラケースPC-5(寸法;443×267×184mm,容量;13.5L)で2個を統一。人工海水を溶解,エアーレーション(1時間)後,ケース1に3L,ケース2に11L分注(水深はケース1で約4cm,ケース2で約11cm)。種コケは海水魚飼育水槽からピンセットで少量を掻き取り,一度海水で洗って新しいケースに添加。

《-1日》

プラケースにコケが十分増殖したので,古い海水を全て捨て、新しい海水と交換。使用した人工海水や容量は前回と同様。同時に別の小ケースに海水を入れ,ブラインシュリンプの乾燥卵を付属のスプーン半分で採り孵化させた。

《1日目》

孵化したブラインシュリンプ幼生を大体の目分量で等分し,ケース1,2に収容。数は計測不能。

〈ケース1〉

ケース内のコケは茶色の藍藻(または珪藻)が大半。水換えは1週間後に1回行い,以降は基本足し水(水道水)のみ。水深4cmを超えないようにする。

〈ケース2〉

ケース内のコケは茶色の藍藻(または珪藻)が大半。水換えは1週間後に1回行い,以降は基本足し水(水道水)のみ。水深10cmを切らないようにする。

《7日目》

〈ケース1〉

ケース内のコケは茶色の藍藻(または珪藻)が大半。水換えは1週間後に1回行い,以降は基本足し水(水道水)のみ。水深4cmを超えないようにする。

〈ケース2〉

ケース内のコケは茶色の藍藻(または珪藻)が大半。水換えは1週間後に1回行い,以降は基本足し水(水道水)のみ。水深10cmを切らないようにする。

《14日目》

〈ケース1〉

未だ生えているコケは珪藻が主。7日目に比べ1/3程度に数は減したが順調に成育している。しかし生体になったものはいない。

〈ケース2〉

未だ生えているコケは珪藻が主。全滅した。

《18日目》

〈ケース1〉

かなり大きくなった固体が多数見られる。すでに3割程度が成体となり雄、雌の判別が可能で、雄が雌を前脚で捕まえて泳いでいる姿も見られる。

《21日目》

〈ケース1〉

ほぼ全ての生存個体が成体になった。成体となった個体数は約50匹。既に新しい幼生が生まれ始めている。


成体になった数は,多い時で60匹程度,少ない時で30匹程度でした。また,水深4cm程度で飼育していても,たまに2週間ぐらいで全滅してしまった事もあります(5回中1回ありました)。

しかし,私の経験では10cm以上の水深で飼育した場合,毎回全滅してしまいました(3回共)。

プラケースを使った飼育ですと,当初数百匹移した幼生のうち50匹程度しか成体になれないので,飼育環境としては論外なのですが,それでも出窓にプラケースを置いて放置しておいても成体になってくれるので,必要となる3週間前から準備すれば,ブラインシュリンプの成体を活用できるでしょう。









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