トップ プロフィール  海水魚今昔  濾過とは 水槽の立上げ  日々の管理  海水魚の病気と対応 雑学


水槽の立上げ(1)



海水魚飼育において,最も基礎となり重要でもある濾過に関して理解できたなら,いよいよ海水魚水槽を設置して海水魚を飼育できるような状態へと持っていく事にしましょう。


1.水槽の設置場所を決める


まず水槽の設置場所を決めましょう。実感がないかもしれませんが,水槽セット一式となると結構な重量があります。ホームセンター等で売られている60cm規格水槽(外枠で60cm×30cm×36cm)でも水を入れれば50kg以上になりますから,しっかりとした台を用意して設置する必要があります。

また,水槽システム一式を稼働させるとなると,それなりのコンセント数(たこ足配線になりがち)が必要となるので,その点も考慮して設置場所を決めましょう。最もシンプルな設備であっても,揚水ポンプ,エアーポンプ,照明,サーモスタット(とヒーター)で4個のコンセントが必要ですから,いかに多くのコンセントが必要かわかるでしょう。

温度コントロールの観点から,夏場を考えると直射日光の当たる窓際等の場所も避けた方がよいでしょう。



2.必要な器具を揃える


ろ過システムの章で書きましたが,飼育スタイルによって必要となる器具も異なります。どのようなスタイルを選んでも,水槽本体,水槽台,揚水ポンプ,温度計,比重計,サーモスタット,ヒーター(エアコン等で部屋全体を24時間毎日温度コントロールする場合は不要),人工海水は必要となります。

もし現在主流となっている,ライブロックを用いてサンゴやイソギンチャク等の刺胞動物をメインとし,それ程多くない数の魚を一緒に飼うスタイルを選択した場合,これらに加えプロテインスキマー(タイプは飼育システムの規模や水量に適したものを選択する),各種添加剤,強力な照明(ハードコーラルを入れる場合は,メタルハライドランプ や対応しているLED照明を選択した方がよい),水槽用クーラー(これもエアコンで24時間部屋単位の温度コントロールをするなら不要),水流用のパワーヘッドや水流コントローラー,RO水製造用の浄水器,ライブロックが必要です。

自分の水槽の水量やどんな生物を飼うのかを,よくショップの人に相談して器具を選びましょう。

またハードコーラルを主体とする場合は,カルシウムリアクターがあった方が水質管理は容易です。

魚のみの混浴水槽でも言えることですが,スペースや金銭的な余裕があればオーバーフロー式の水槽とサンプでシステムを構成すると,後々のメンテナンスやシステムアップが楽になります。

次に昔ながらの無脊椎動物を一緒にしない魚主体のスタイル(強制循環式)を選んだ場合ですが,追加で最低限必要な器具は濾過槽(底面濾過式,上部濾過式,外部濾過式等,スタイルによって必要な器具が変わってくる),濾材(やや荒目のサンゴ砂で十分),エアーポンプ一式と照明ぐらいで,それも普通の蛍光灯やLED照明で十分です。水槽サイズにもよりますが,強制循環システムですのでエアーレーションは強めにした方がよいでしょう。

病気の予防という意味では,UV殺菌灯があった方がよいですが,必須ではありません。また深場に住む魚や温帯域の魚を飼育する場合,水槽用クーラーが必要となります。

ライブロックに関しては,無脊椎動物を一緒に飼育しない場合は別に無くても何ら困る事はありませんし,立ち上げ時期は魚の病気が起きやすいにもかかわらず薬品投与を困難にするというデメリットを生じさせるため,無い方がメンテナンスは容易です。



3.水槽をセットし稼働させる


水槽台の位置を決め,いよいよ水槽を設置して必要な器具をセットします。この際,各器具の取扱説明書をよく読み,危険が無いようにしましょう。電気製品が多いですから,漏電などに十分注意します。

一通りセットが終了したら,水を入れて漏水や不具合がないかを確認します。何も問題が無ければ,適量の人工海水を投入し十分撹拌して溶解させ,その後システムを稼働させてエアーレーションも開始します。1日程飼育システムを空回しした後,水槽に入れる生物を迎えます。

まずは,バクテリア製剤とスターティングフィッシュを使う昔ながらの方法による強制循環式の場合ですが,エアーレーション開始と共にバクテリア製剤も規定量投与します。そして空回しした後にスターティングフィッシュを迎えるのですが,立ち上がった後のことを考えると気が強かったり,縄張り意識の強かったりする魚種は避けた方が無難です(ルリスズメ等の大部分のスズメダイの仲間やクマノミの仲間等)。

私がお勧めするのは,その水槽サイズに合った大きさのデバスズメを数匹から10匹程入れる事です。デバスズメは仲間同士で激しいケンカを行いませんし,他の魚にも突っかかったりしない上,緑色に輝くので綺麗ですから。

スターティングフィッシュ投入後,濾過バクテリアが十分な量まで繁殖してアンモニアや亜硝酸が飼育生物にほぼ無害な濃度に落ち着くまでの期間は,一般的には大体5〜6週間です。しかし個々の水槽で条件等が異なるため,きちんとモニターして確認しましょう。

そして,アンモニアや亜硝酸濃度が下がったといってすぐに多くの魚を追加するのではなく,時間をかけてゆっくりと増やしていきましょう。

理由はこの時期,スターティングフィッシュを維持するには何とかなるものの,飼育生物の急激な増加に対応する濾過バクテリアの量的な余裕がないためです。

さらに病気の発生率等を考慮すると,完全に飼育システム内の環境というか微生物相が安定化するのは最低でも2ケ月はかかると考えた方が良いでしょう。

この期間に上手く濾過バクテリアの量と飼育する魚のバランスを維持しながら飼育魚を増やしていけば,その後は安定した水槽に落ち着くことが多いのです。しかし,逆にここで無茶な飼育を行った場合は,何となくトラブルが起き続ける水槽になってしまいます。

なお,立ち上げ期間中は殺菌灯等の器具を組み込んだシステムであっても,消灯しておいた方が安定化までの時間が短くなります。これは殺菌灯を点灯させていると,増殖中の濾過バクテリアは海水中にも多く浮遊しているので,これらを殆ど除去してしまうために効率が悪くなるためです。


次に最近多くなったライブロックを用いる方式では,やはり病気の発生率等の水槽内環境というか微生物相が安定化するのに最低2ケ月ほどかかるため,この間はライブロックだけか,もしくはサンゴ等の無脊椎動物は入れても魚は入れないで飼育を行った方が将来的に安定した水槽になります。

ただ,なかなか2か月間魚を入れずに我慢できる初心者は少ないのが実情で,ここで我慢できなかった場合,白点病等の病気が猛威を振るう事になりかねません。

しかしライブロックのせいで飼育水槽内に効果が強い魚病薬を投与する事ができないため,結局効果的な治療を行えず魚を見殺しにしてしまう人も多いのです。

したがって魚だけを飼育したい場合,安定するまでの期間を短縮するわけでもなく,病気の治療に縛りをかける結果となるライブロックをわざわざ立ち上げに使う必要は無い,というのが私の持論です。







戻る/次頁へ
inserted by FC2 system