トップ プロフィール  海水魚今昔  濾過とは 水槽の立上げ  日々の管理  海水魚の病気と対応 雑学


海水魚飼育における雑談7



8.1967年頃の海水魚濾過関係商品



古い観賞魚誌を見ていると,案外いろいろな物が型は古臭いものの随分昔からあることに気が付きます。その中でも,今でも十分使えそうな商品をピックアップしてみました。無論,性能は今の製品に及ばない事もあるでしょうが,そこは仕方がないでしょう。



外掛け式フィルター


カクレクマノミブームの頃,これまで海水魚を飼ったことのない人向けに外掛け式フィルターを使った小型水槽の飼育セットモドキ(中には一応ある程度飼育可能な物もありましたが大半は……)がよく売られていました。

小型水槽に濾過能力が貧弱な外掛け式フィルターでの飼育は確かに可能ですが,はっきりいって少なくとも中級者以上の知識と経験があることが前提だと私は思います。

ただでさえ,水量が50Lもないため気温の影響を受けやすい上に,濾過能力が上部モーターフィルターに輪をかけて貧弱ですから,それこそちょっと家を空けたことで壊滅しかねません。水量が少なく濾過能力が低いという事は,内外の変化に対する緩衝域が非常に少なくなるのです。

私も110cmの水槽を維持しながら,敢えて60cm規格水槽で底面フィルターとパワーヘッドという飼育水槽を立ち上げたりしましたが,それ以下の小型水槽で海水魚を飼育することは小まめな管理が必要なのでやりたくありません。

60cm規格水槽で単純な濾過システムでも,せいぜい10cm以下(5〜6cm程度)の魚を2〜3匹に留めることができるならば,それなりにトラブルなく飼育できます。しかしこの場合,水槽システムというよりは自制心の面からかなり難しいように思います。

私も補助的にしか使ったことのない外掛け式フィルターですが,実は1967年の観賞魚誌に同じような商品の広告が載っており,意外に昔から存在する器具なのです。構造が簡単なのと,半導体や小型高出力化が不要なため,47年前でも問題なく実用レベルの商品ができたのでしょう。

さて1967年の広告に載っている商品ですが,大阪の粥N電社という会社が販売していた「パワーフロー コメット型モーターフィルター」というものです。私も実物は見たことがありませんが,サイズは250(幅)×260(高)×100(横)mmと,現在の60cm水槽用類似商品と比べてほぼ同じです。

2種類の商品が広告されていましたが,1つは構造的に現在とそれ程変わらないものです。もう1つは,ポンプの吸水口がフィルター内に設置されていて飼育水槽からはサイフォンの原理で水を持ってきます。OF式の下部フィルターを無理に小型化したような構造といえば,想像しやすいのではないでしょうか。広告写真では濾材としてサンゴ砂は入っておらず,活性炭らしきものがネット入りで入っています。

確かに薬品による着色を除去するには良い商品だと思うので,この広告写真は適切な使用例でしょう。現行商品は吸水口を飼育水槽内に入れるような設計のものが多いため,実際の使いやすさではどうなのか比較してみると面白いかもしれません。



吹上式濾過システム


最近はあまり見かけませんが,海水魚用の濾過システムで吹上式というものがあります。

簡単にシステムを説明しますと,上部モーターフィルターや海水魚用上部フィルターでまず物理濾過を主体とした濾過を行い,そこから上部フィルターと底面フィルターを直結する吹き落としパイプを通った海水が,底面フィルター全体から湧き上がるように飼育水槽内に戻るものです。底面フィルターの上には普通通り小豆大(10番程度)またはもう少し細かいサンゴ砂を敷きますが,ここで硝化作用(生化学的濾過)が行われます。 

このシステムの利点は,オーバーフロー形式にしなくてもしっかりとした物理濾過ができることと,水槽底面を活用して硝化作用を行う濾過面積が広く取れる事です。また,通常とは逆方向に底面フィルターを海水が流れるため,サンゴ砂や底面フィルターの下にゴミが溜まるのが遅くなりメンテナンス期間を長く取れます。

このように,スペースの問題でオーバーフロー方式が無理な場合,水槽+上部フィルターよりも濾過能力が高く海水魚飼育に向いています。




吹上式水槽の概念図



しかしどこのメーカーも,上部フィルターと底面フィルターを接続するパイプを商品化していないため,自作するかオーダーメードして誰かに作ってもらう以外,このシステムを個人レベルで構築する術はありません。

この吹上式ですが,1967年の観賞魚誌に実用新案出願中という文言と共に広告が掲載されています。名称は「ハイロン水槽」といい,今はもうない「青いサンゴ礁」という大阪のショップと神戸電機鰍フ共同開発品のようで,底面フィルター上面が波型になっているのが特徴です。

このフィルターも「波型吹上式水底フィルター」として特許実用新案を出願中と書いています(実用新案と特許は別々の制度なので,実際はどちらを出願したのでしょう)。

実用新案でも特許でも出願するということは,他社もしくは他人が商業目的で類似品を作る事を防ぎ独占的な事業展開を行う事を目的にしていますので,これが成立していれば今と違い日本全国に広がるのは難しかったと思います。


この吹上式は,1980年代にも東京のショップ(やはり今は無い AOYAMA ブルーマリンというショップ)がオリジナル商品(名称はパラゴン水槽)として特許出願中の文言と共に,やはり観賞魚誌で広告を出していました。

広告の絵を見る限りでは,10年以上前のハイロン水槽とほぼ同じ構造のように思えます。特許でも実用新案でも,出願以前に公知となっているものに対して新規性と進歩性が認められなければ新たな権利化が許されないため,特許庁の審査官がハイロン水槽と同じもの(あるいは容易類推)だと判断すれば権利化はまず無理です。

明細書を読めばシステムとしての明確な差があったのかもしれませんが,今となっては確認できません。どちらも権利化できたのかは,興味が湧くところです。

幸運なことにどちらの商品も,権利化できていたとしても既に20年以上経っているため,権利は消滅しています。しかしこのシステムで海水魚を飼っている,という話や記事はほとんど見たことがありません。外掛け式フィルターは今でも観賞魚メーカーが製品化していますが,こちらは時代の流れの中に消え去ってしまったのでしょうか。







戻る/次頁へ
inserted by FC2 system