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日々の管理(海水魚水槽の維持)




1.水質管理



1-@ 魚の追加に伴う水質のチェック


海水魚水槽立上げの章で詳しく述べたように,貴方の水槽の濾過バクテリアは現在水槽で飼われている魚達を生かすには十分な量となっています。しかし,バクテリアが2分裂で増えることから,1回に追加する魚はこれまでの収容量(重量で考えましょう)より少ないか,最大でも同じ量に留めておくことが重要です。

では,なぜ重量で考えるのでしょう。濾過という観点から考えると水槽内の魚はアンモニアの生産者,つまり濾過バクテリアの餌供給者になるわけです。

魚は体内の窒素代謝物をアンモニアの形で鰓から排泄しますが,尿によっても体外にアンモニアを排泄します。また,糞も海水中の微生物などによって分解されアンモニアとなります。

全長が10cmの健康なチョウチョウウオとヤッコでは体の厚みがかなり異なり,体重もヤッコの方が重いのです。無論,呼吸量も餌の消費量もヤッコの方が多いということに異論はないでしょう。したがって,アンモニアの生産量ではヤッコの方がかなり多いと言えます。

故に濾過という面からあなたの水槽で飼育できる魚の数量を考えた時,必要な単位は匹ではなく体重(gまたはkg)となります。

先に上げた例のように,数cmのデバスズメダイ10匹を入れて立ち上げた水槽にいきなり8cmを超えるヤッコを入れるという事は,貴方の水槽で一気に何倍ものアンモニア産生が起きる事に繋がるのですが,体重で考えると良く理解できると思います。

しかし,ベテランでも追加する魚の体重を一々測ったり,元から入っている魚達の合計重量を把握したりなどしていません。かくいう筆者もそうです。

だからこそ,新しく魚を追加しようと考えたら,現時点での貴方の水槽を循環している海水の水質をチェックしてみましょう。まずはベースラインをしっかりと確認しなければ,その後の変化を正確に把握することなどできません。

買ってきた魚を温度合わせし,それから水合わせして貴方の水槽に迎え入れるわけですが,魚を入れたからといって1時間や2時間でテスターを使って検知できるレベルの水質変化は起きません。

ですから最初の水質チェックは追加してから12時間後か24時間後ぐらいでよいでしょう。そしてその後1週間ぐらいは,1日1回アンモニアと亜硝酸の濃度を測定する事をお勧めします。

1週間経ってもアンモニアや亜硝酸濃度が上昇し始めなければ,濾過という観点から見た場合,魚の追加は何ら問題なかったと言えるでしょう。





1-A 魚の調子に合わせた水質のチェック


一度安定した海水魚水槽の場合,無茶な飼育魚の追加等を行わない限り水質が極端に悪化することは滅多にありません。ただしこれはあくまで原則論でして,ウエット式の濾過槽で濾材に通常よくつかわれる小豆大のサンゴ砂を採用している場合は濾材の目詰まりを防ぐために定期的なメンテナンスが必要となります。

メンテナンスの期間は,例え同じサイズの濾過槽で同質・同量の濾材を使用していても個々の水槽の環境や状況によって異なります。理想的には2週間に1回,全水量の1/4〜1/3程を新しい海水と換えてやれば十分です。

私は大体1ヶ月に1回,全水量の2/7程度を換水(その際に濾過槽の毒抜きも行いますが)していますが,収容している魚の数を抑えているため,このやり方で10年以上問題は起きていません。

無論,真夏などのように水温が高くなってしまう場合,当然残餌や糞の腐敗は早くなるので,そのような時は1回の換水量を多くするか,換水の間隔を短くするなどの対応が必要となることもあります。

したがって,ある程度自分の水槽の状態を把握できるようになるまでは,問題となりそうな芽を素早く察知して対応できるように,定期的な水質チェックをお勧めします。

海水魚だけの場合,毒性が強く迅速な対処が必要なアンモニア,亜硝酸と共に,海水の酸化度合(硝酸塩の蓄積等)を示すpHか,または硝酸塩を測定すれば十分でしょう。サンゴを飼育している場合,これらに加えKHやリン酸塩濃度等も測定するも重要になってきます。

また初心者の場合,飼っている魚の調子がおかしくなった原因は水質悪化によるものか,何らかの病気(大部分は白点病)によるものが圧倒的に多いのですが,原因によって対処法が異なりますから,そのような場合もまず水質チェックを行う事で原因を特定または絞り込むことができます。





2.飼育魚の体調管理


水質管理の章で少し述べましたが,魚の体調が悪くなった場合の原因としては大きく分けると次の4つのどこかに分類されます。

1)水質

2)トラブル(機器トラブル,天災,停電,衝突死)

3)ストレス(組合せ,喧嘩)

4)病気

初心者の場合,魚の体調悪化原因の第1位は1)水質です。これは飼育水槽立上げが上手くできない場合に非常に顕著です。「濾過とは」で述べたように,海水中のアンモニアや亜硝酸濃度の増大は直接的なショック症状に繋がり,極めて即効的な死亡を引き起こします。

第2位は4)病気で,特に立上げから水槽が完全に安定化するまでの期間で良く起きる白点病が大部分を占めると考えています。無論,水質の悪化は魚にとって顕著なストレスを与えますからストレスによる免疫低下によって病気に罹患しやすくなるため,水質悪化はストレスの一種と言う事も出来,病気の発生と密接な関係はあるのです。

またある程度経験を積んだ中堅者やベテランでも,小型水槽(水量が50L以下,特に20〜40Lの小型水槽)で海水魚を飼育していると,調子が落ちる原因のかなりの割合を1),4)が占めるでしょう。


中堅者(中級者)ともなると60cm規格水槽以上のサイズで飼育している限り,1)が原因ということはほとんど無くなってきます。きちんとテスターを使う人はもちろんの事,大抵の人は経験から培われた勘のようなもので換水のタイミングや魚の調子がわかるようになるのです。

この頃になると様々な種類の海水魚を水槽に入れたくなる欲求が高くなり,自分自身でもちょっと水槽の収容数が多いかな,と思いつつも新しい魚を買ってきてしまうことも多くなります。

しかし換水の間隔を狭めたり,換水量を多くしたりすることで水質コントロールができるという経験からくる自信も持っているのであまり気にしない傾向が高いようです。

このレベルになってくると,魚の体調悪化原因の第1位は3)ストレスとなり,次いで4)病気となります。

ストレスというのは結構多くの人が気付かないようですが,私はこれこそが初心者レベルを超えて以降の調子悪化の根本にあると考えています。初心者の所で述べたように,大きな水質悪化も非常にシビアなストレスであることは間違いありませんが,この場合はテスターで容易に把握することができ,これをある程度コントロールできることが中級者だと個人的には考えています。

ここで述べるストレスとは,魚が慢性的というかある程度中・長期間暴露されることによって悪影響を与えるものを指します。基本的に組合せから起きることが多く,人間同様目に見える喧嘩が起きなくても自分より強い存在からのプレッシャーを受けることで容易に発生します。またショック症状を起こすほどではなくても,濾過能力ギリギリの量の魚を飼育することによる軽度の水質悪化も該当します。

人間でもストレスを許容以上に受けると精神疾患を発病したり,免疫機能が低下して健康な時には容易に起きない病気が発症し易い状態になったりするのですから,狭い水槽内で自然下では考えられない密度で飼われている魚ではより起きやすいと考えるべきです。

魚の場合,ストレスを受けている事の判断材料として,

@魚が退色して隅の方で隠れがちになる

A病気でもないのに何となく元気な無いように見え,餌食いも落ちている

B餌は食べているものの,色艶がなく痩せてきた

等があります。

無論,これらは病気の兆候である可能性も高いので,病気かどうかの見極めが必要になってきます。これらの兆候を見つけ,病気ではなさそうだと判断したら,その魚は同居している魚に押され強いストレスを抱えていると見てよいでしょう。

さらに飼育者も24時間水槽を見ているわけではありませんから,小競り合いや追いかけっこ等からくるスレや外傷も受けるでしょう。

飼育システムに殺菌灯等を使っていれば,通常多少のスレや外傷が化膿することはあまりないのですが,ストレスに曝されて免疫機能が低下している場合は容易に細菌感染が起き化膿する場合があります。

外部から病気の原因となる寄生虫類を持ち込まない限り,私は水槽内で発症する感染症の大部分はストレスが基本的な原因である日和見感染だと考えています。

このようにストレスは病気とも密接に関連しているため,ストレスをなるべく少なくすることが魚を長期飼育するために重要となってきます。ストレスを低下する対応策としては,

@なるべく飼育密度を小さくする

A魚の種類毎の性質をよく勉強して組合せを上手く考える

B飼育数に応じたシェルターをレイアウトで作り出す

C飼育数に応じたシェルターを作れないのであれば,いっその事一切の飾りを設置しない

等があります。

ただ組合せは本当にケースバイケースなので,やはりそれなりの経験を積まないと上手くできないのは仕方がない事なのです。


さて上級者,ベテランともなると,長期飼育を行っている人の大部分は3),2),1)を上手くコントロールしていると言えます。

しかしそれでも,やはり魚の体調悪化原因の第1位は3)ストレスでしょう。なぜなら,いかに上手い組合せであっても魚は成長します。それに伴って水槽内のパワーバランスは変化しますし,大きくなると性質が荒くなる種類もいます。かくして数年間上手くいっていた水槽内で,ある日喧嘩が起きたり,いつの間にかある魚が痩せてきたり,餌を食べなくなって元気が無くなったり,という事が起きるのです。

ただベテランともなると,そのあたりを早期に察知することも可能なため,魚を落とすまでにはいかないことも多いのです。

次に多い体調悪化の原因は2)トラブルでしょう。ベテランともなると飼育年数も長くなるため,使用している機器類もそれなりの長期使用になります。

ある朝餌をやろうと水槽に手を入れたら,サーモスタットやヒーター,ウォータークーラーのトラブルで海水が冷たくなっていた,または手を入れたら海水がえらく暖かかった,という経験はベテランなら一度や二度はあるでしょう。

気が付いてすぐに対処すれば大事に至ることは早々ないのですが,こういう事は得てして出張や旅行に行っている時,仕事などで忙しくなかなか魚に構えない時に起きたりしますので,ベテランといえども飼っている魚を一度に複数落とす羽目になります(私としては,店が休みとなる年末年始の機器トラブルや,下手をすると水温が34℃になってしまう夏のクーラートラブルが一番怖いです)。

ベテランだけ敢えて第3位の原因を上げますと,それは性質の悪い病気でしょう。具体的には治療が難しいエラムシ症やビブリオ病に代表される細菌感染症等です。

逆に白点病やウーディニウム病ならば,銅イオン治療ができれば魚を落とすことはほとんどありませんし,ハダムシ症も魚を水槽に移す前に淡水浴を行えば怖くはありません。

当然初心者の方もこのような病気に遭遇するのですが,トリートメントをきちんと行いメイン水槽に病気を持ち込ませないようにしているベテランと比べ,圧倒的に白点病の発生率が高いため他の病気があまり目立たないのです。



初心者,中級者,上級者に共通する原因である病気に関しては別章で詳しく解説しますが,どのようなレベルであるにせよ,魚の体調管理の第一は日頃からよく魚達を見る事です。

水質はどれ程目を凝らしても見えないため,無論テスターによるチェックは必要です。しかし魚に関して言えば,人間の観察眼というものは侮れません。

ベテランになればなるほど,かすかな変化の兆候を視覚から得た情報で読み取ります。

私の場合,休日は最低30分ぐらいかけて飼っている魚全てをチェックしています。この際の主な確認項目は,

@泳ぎ方を含む挙動

Aこちらに対する態度

B餌食い

C体色

Dスレや傷の有無

E黒目の状態と目の動き

等です。

なるべく観察の機会を多くとり,慣れてくれば忙しい平日でもこれらの項目をさっと一瞥して確認できるようになります。

魚の健康で健常な状態を目に焼き付けて記憶しておけば,パッと見ただけでも異常がある場合に違和感という形で感知できるのです。違和感を見つけたなら,そこからじっくりと観察を始めその原因を突き止めるようにしましょう。

ベテランの方達は,大抵このようにして異常を初期状態で感知し対応するため,大事には至ることは多くありません。無論,初期状態で異常を感知しても対処が難しい場合(性質の悪い病気等)もありますが,早く気が付くに越したことはありません。


最後に,これはある程度経験を積んだり該当する魚を飼ったりしていないと分からないものですが,魚からある種のサインを飼育者に示すことがあります。

例えば,水槽を眺めているとやたらと目の前に来てコケを啄んで見せる事や,いつもよりゆっくりと,しかし執拗に自分の身体(のある部分)を見せに来ることがあります。

私の場合,飼育している歴代のクイーンランドイエローテールエンゼルが該当するのですが,コケを啄むときはお腹が張っているらしく便通が悪い時が多いようです。このような時,植物性のフレークフード等をメインに摂餌するといつもよりよく食べる場合が多いようです。

また執拗に飼育者に体を見せる場合,大抵は白点病やその他の病気(ハダムシ症やトリコディナ病)のごく初期状態である場合でした。

おかげで私は,魚に教えられて迅速に病気に対応することができ,大事に至ることはあまりありません。無論,魚によって示すサインは様々でしょうが,常に観察していて魚も慣れていると実に様々なサインを示してくれます。せっかく魚からサインを出してくれるのですから,飼育者としてはきちんと汲み取ってあげたいものです。





3.飼育システムのチェック


魚の体調にも密接に関係しますが,貴方の飼育水槽全体,つまり飼育システムの異常がないかもチェックしましょう。

例えば配管等も長期間飼育しているとゆっくりとですが緩くなって来たり,ホースが固くなって来たりして漏水したり外れやすくなったりします。

極端な例ですと,東日本大震災の時,私が会社から帰ってきたとき家は停電していましたが配管に見た目では異常がありませんでした。しかし通電して海水の循環が再開されて暫くして,濾過槽から水槽へと水を上げるパイプとエルボーとの接合部分が外れてしまいました。

幸い,すぐに気が付き対処したため玄関が水浸しにはなりませんでしたが,その日は日中家に誰もいなかったため,もし停電していなければ地震後しばらくして,揺れで緩んだ配管が外れ帰った時には玄関が水浸しの上,魚達も全滅という事になっていたでしょう。

何が幸いするかわかりませんでしたが,こういう事が経年劣化で起きないように日頃からチェックするようにしましょう。それ以外のチェック項目も含め,一般的なものを挙げます。

@漏水の有無:貴方の飼育システムの配管に緩みはありませんか?

A水温:サーモスタット,ヒーター,クーラーは正常に作動していますか?

B海水の循環:ポンプは正常に動いていますか? 物理濾過槽や濾材が目詰まりしていませんか?

Cエアーレーション:細くなったり止まったりしていませんか? 

D海水の透明度:エアーレーションの泡切れが悪かったり,透明度が普段より落ちたりしていませんか?


魚の体調管理以外で,飼育者が日常で行う管理は大体こんなものでしょう。無論,個々の水槽で条件は異なりますから,各自がそれぞれの水槽に合った管理を行ってください。

魚でもシステムでも同じですが,トラブルは初期段階で対処し食い止めることが,魚にも飼育者にも幸せな結果に繋がりやすいのですから。





4.水槽の換水と掃除


日常管理の最後の項目として,換水と掃除に関して簡単に記します。換水の間隔に関しては,水質管理の項で書きましたので割愛しますが,普通は換水の際に濾過槽の掃除等のメンテナンスを行います。

ドライ式の場合は物理濾過槽のウールマット交換ぐらいでしょうが,ウエット式の場合は物理濾過槽の対処だけでなく目詰まり防止のため濾材の掃除が必要です。

ただ濾材の掃除と言っても,OF式のように濾過能力に余裕のある場合は濾材を全部出して海水で濯ぐような大掃除をいつもやる必要はありません。せいぜい毒抜き棒を使った掃除だけで十分です。

しかし上部濾過槽のように濾材の量がそれ程多くないのであれば,1〜2ケ月に1度の間隔で濾材を取り出して掃除した方がベターなのは言うまでもありません。

流動床式の場合,細かいタイプの濾材を使用しているのであれば,配管内に詰まることもあるのでその点だけチェックすれば基本的に濾過槽の掃除は不要です。詰まってきて濾材の流動性が悪くなってきたら,エアーチューブを使って濾材を1/3程吸い出してやり,それから一度ポンプを稼働させてやれば逆流して詰まっていた濾材が吐き出され流動性も回復します。

その後もう一度ポンプを止め,吸い出した濾材を戻してやればよいでしょう。ただ,このような状態になるには理由があるため(長期間使用していた場合は,大抵ポンプの性能低下です),解明した上で必要な対応を取りましょう。

濾過槽の掃除方法は人それぞれでもありますから,普段自分が行っている掃除方法で調子良く状態を維持しているのであれば,無理して変える必要はありません。

ただ,濾材をいじった後は微細なゴミや微生物が舞い上がっています。

この舞い上がった微細なゴミや微生物が意外に悪さをするため,OF式であれば濾過槽と水槽の間に殺菌灯を付けたり,しばらく水槽内に海水が入らないよう濾過槽⇒殺菌灯⇒濾過槽といった形で循環させた方が,鰓へのダメージや原因生物を特定できない感染症等を防ぐことができます。




毒抜き棒

現在,私がウエット濾過槽掃除用に使用している毒抜き棒の模式図です。以前はとあるショップで売っていたのですが,今では購入はほぼ不可能です。私の使用しているものは,上部モーターフィルターの予備用ストレーナーを使い,知人に作成してもらったものを,さらに加工しています(ストレーナー底部にも,フライス盤でスリットを切った)。φ13mm の塩ビパイプにホースを繋ぎ,サンゴ砂の中にストレーナーを突っ込んで動かすことで濾材間のゴミを吸い出します。













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