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海水魚飼育における雑談16



17.海水魚飼育方法のバリエーション


今年(2014年)ももうすぐ終わりですが,2014年最後の記事では様々なHPに掲載されている飼育方法や初心者の質問,飼育相談に対する回答が,なぜいろいろと異なるのか考えてみようと思います。



例えばもし初心者やこれから海水魚飼育を始めようとする方に,どのようなシステムが良いだろうかと相談された場合,私はまず予算と設置スペース,それに何を飼いたいのかを尋ね返します。

もしハードコーラルをはじめとする無脊椎動物を主体という回答であれば,残念ながら自分では力になれないので迷わず他の方に相談するように告げます。

海水魚を飼いたいというのであれば,まず最近の流行であるライブロックは使わないように,また濾過方式は各方法のメリットとデメリットを告げた上でなるべく濾過面積(濾材容量)を広く取るようにアドバイスします。

そうです,私が初心者用だと考えている濾過方式は,昔からの強制循環方式による濾過槽を持つ魚だけの混泳水槽です。毒抜き棒を使った正しい掃除を行えば,時代遅れで使う人があまりいなくなった底面濾過式こそ,最も予算が少なくある程度の数を飼える初心者向けの方法だと考えています。

これが包み隠さずに公開する私の持論ですが,ナチュラルシステムやその応用で魚を問題なく飼っている人達からすれば,このような事など到底同意できないでしょうし,それはそれで正常なことであり一向に構わないのです。

なぜならば,海水魚やサンゴをそれなりの期間上手く飼っている人ならば,それぞれが飼育に関して自分なりの持論を持つようになるのが普通だと思いますので。



私がこのような持論を持ったのは,当然のことながらこれまでの私自身の飼育経験に基づいています。

私の場合,ハードコーラルもソフトコーラルもあまり興味がなく,ヤッコやチョウチョウウオ,ベラ等を混泳させた動きのある水槽を見ることが好きなため,飼育スタイルは始めて以来ずっと海水魚混泳水槽に強制循環濾過の組合せでした。

30年近いキャリアの間にサンゴの事は考慮に入れず(一度も飼ったことがない),いかに魚を上手く且つ健康に飼うかという事のみを考えてきた結果がこの持論に辿り着いたのです。

さらに自分の経験から,今自分が採用している飼育方法では病気が出る事は滅多にない,という自負を持っているために,持論に対しても強い自信を持つことになります(新しく入れた魚以外では,2年に一度程度ごく軽い白点病が発症する程度で,硫酸銅治療で問題なく治癒します)。



無論,他の方々も私と同じように様々な経験を積むことによって,色々な持論を持つに至っているでしょう。別に学問の世界ではなく海水魚飼育は趣味の世界ですから,皆さんが自分の考えの基にいかなるシステムを選択しようが,それは自由であり責任は飼育者本人にのみあります。

いろいろな方が本やHPで持論を披露していますが,これらは教科書レベルの知識を基に(全ての方が水槽内に生物が排泄する窒素老廃物であるアンモニアは有毒であり,アンモニアや亜硝酸,場合によっては硝酸塩を一定以下のレベルになるようコントロールするという点では一致しています),持論の持ち主がこれまでの自分の経験や実験,考察を基に築いたものです。それに対してとやかく言われたくないのは,誰もが感じる事だと思います。

極論を言ってしまえば,自分の水槽が調子よく維持され飼っている生物が元気に成長し長生きしていれば,その方は自分の持論に何ら問題を感じる必要などありません。人によっては他の方が言っていることなど聞く必要すらない,と考えるかもしれません。

そしていかなる持論を持とうが,自分の水槽や飼っている魚達に対してだけ適応させてネットなどで初心者に売り込まない限りは,他者との軋轢を生じさせることもないので自由だと私は考えます。もし貴方の海水魚飼育が長い間上手くいっているのであれば,貴方の飼い方(飼育理論)が巷にあふれる飼育理論と合わなくても気にすることなどないのです。



しかし他の人の飼育相談に応じる場合は,話が少し変わってきます。実際に私自身,自分の飼育スタイルや考え方が他者の飼育環境にそのまま適合するとはこれっぽっちも思っていません。

最初に披露した持論はあくまで私の経験や考え方に基づいたものであり,私にとってはこの上もなく正しくものであっても,他者の飼育環境を考慮したものではないからです。

したがって極端なことを言えば,水槽中の生物が輩出したり残餌が腐敗したりしてできるアンモニアがきちんと処理できて生物に影響を与えなければ,どんな方式であろうが正しい飼い方だと言えます。

さらにそこに日々の水槽管理をいかに楽にするか,という観点が入ってくると,各々の飼育者が自分の飼育経験に基づいた持論を作り上げるため様々なバリエーションが生まれてくるのです。

ただし自分の経験に基づいた持論の場合,自分自身が把握していなくても実際には様々な前提条件(実験条件と言っても構いません)が,その結果を導くためにあったという事も考慮に入れるべきであり,それが科学的な物の見方でもあります。

実際に学術論文というものは,その論文内に記載してある記述を見て他の研究者が再現できるものでなくてはならないのです(今年のSTAP細胞に関する論文撤回を見れば良く分かると思います。STAP細胞というものが本当にあるのかどうかとは別に,データねつ造も含めあの論文には再現性が無かったことが問題なのです)。

だからこそ飼育相談への回答は難しく,せいぜいその方の飼育システムに応じた対処法を答える事に留めるべきだと考えています。根本から解決しようとして,自分の持論を基に飼育システムが悪いから言うとおりに変更しろ,とはとても言えませんし,経済的負担やその後の責任もとれませんから。



もし自分の持論よりも一般化(より多くの飼育者に適応している)の度合いが高く,自分の飼育に当てはめても矛盾が無くて確実に今より上手くいくような考え方に出会ったら,私は素直にこれまでの持論を引っ込めてその考え方を取り入れるでしょう。それができなければ,自分の科学に対する姿勢が保てませんし,科学や技術に関する議論とはそのようなものだと考えています。

しかし人間というものは,自分が困難に直面してこれまでの経験や考え方で対処しきれなくなって初めて,他者の意見を求めるものです。したがって巷に数多くの飼育方法が公開されているという事は,それだけ調子のよい水槽があるということで喜ばしいのかもしれませんね。







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