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海水魚飼育における雑談54



56.頭皮欠損症(HLLE:Head and Lateral Line Erosion)1


海水魚の病気は、実際のところ極一部しか原因と治療法がわかっているものがありません。私の経験上、普通に飼育して遭遇する病気は殆どが白点病で、次いでハダムシ症とリンホシスチス病、ぐっと遭遇率が下がってエラムシ症にウーディニウム病、トリコディナ症、ビブリオ病でしょう。まあポップアイもそれなりに遭遇しますが、減圧不具合の影響によって起きるもの以外は原因がわかりませんし、あまり治療法もありません。

ということで、大抵の場合はこのあたりまでの見分け方と対処法がわかっていれば、海水魚飼育の病気トラブルは解決できます。ちなみにトリコディナ症は以前キートドントプル系のヤッコで何度か発症しましたが、20年前にUV殺菌灯を設置して物理フィルターに何重にもウールマットを敷くようにした現在のシステムにしてから、まず発症しなくなりました。

またリンホシスチス病は購入直後の魚で発症することが多いですが、検疫水槽に入れて落ち着かせてしまえば進行は止まり、時間が多少かかりますが自然治癒することが多いです。エラムシ症は、幸いなことにこれまでそうだと特定できる症状を持った魚に遭遇していないので、治療法はわかりますが判定に自信が持てません。



しかし実際に海水魚飼育を行っていると、対処できないトラブルも多々起こります。代表的なのは、底砂や濾過槽の濾材を手荒くいじったり掃除したりした際に巻き上げられた原因菌を特定できない細菌感染症(主に鰓をやられる)です。抗菌剤の水槽投与で救える場合もありますが大抵の場合手遅れで致死率は高い方です。

またヤッコなどでは鰓蓋内の鰓そのものや周辺部位に腫瘍ができることがあり、これも対処法はないに等しく大抵は最後に死亡してしまいます。巻き上がった細菌への対応は、濾過槽内での一致時間の通水循環やUV殺菌灯の設置で対応できますが、腫瘍などはどの部位に発生しても外科手術以外では治療困難ですし、外科手術も実際にはごく一部の人にしかできないでしょう。



さてこれまで触れてきませんでしたが、魚の病気の中に比較的ヤッコやハギに起きやすい頭皮欠損症というものがあります。未だに原因となる病原体や発症メカニズムがはっきりせず、治療法も一般化されているとは言いがたい疾病です。

私も30年以上海水魚飼育をしていますが、これまでタテジマヤッコ、クロシテン、ヒレナガヤッコの3匹に発症しただけで、個人的にはレアな症状と言えます。

最初の症例だったタテジマヤッコは、1996年頃に頭皮欠損症を発症して右側の顔の部分のほとんどで肉がむき出しという状態になりました。なぜかこの時は左側には異常がなく、泳ぎや摂餌にも変化は見られず元気に泳いでいました。このタテジマヤッコはその数か月後、内蔵性ビブリオ症で死亡してしまいしたので、頭皮欠損症はそのままの状態でした。

この時の飼育環境は、60×45×45cm の水槽に底面濾過フィルターを2枚置き、左右に立てたパイプにマキシジェットを1台ずつ(計2台)接続し、濾材は10番サンゴ砂を4〜5cm でほぼ均等に敷いた単純なシステムでした。物理濾過フィルターもUV殺菌灯も未設置です。このタテジマヤッコはフレーク餌(テトラマリンフレーク)に餌付いていましたが、やや餌食いが悪く栄養状態はあまり良くなかったかもしれません。



2例目のクロシテンは、2007年夏に購入し、購入時5cm程でしたがメイン水槽での4年間の飼育で死亡時(死因はクーラーの故障による高温障害)16cmにまで成長しました。このクロシテン、飼育2年目で頭皮欠損症を発症し、主鰓蓋骨から口にかけて両側ともに鱗を含めた表皮が欠損するという程の重症でした。

とは言ってもこの症状の特徴でもありますが元気いっぱいで餌もよく食べるし、どんどん成長もしました。発症して半年ぐらいは鱗を含めた顔の表皮が欠損して、肉がむき出しという感じだったのですが、その後放置していたにもかかわらずだんだん鱗が再生し治り始めました。

そしてクーラー故障による死亡の直前には再生した鱗の大きさが不揃いだったものの、ほぼ頭部の状態は肉がむき出しの部分は無くなり治癒していました。このクロシテンはシュアー(これがメイン餌)、テトラマリンフレーク、冷凍ブラインシュリンプ等、何種類かの餌を選り好みなく食べていて体型もしっかりとしていました。したがって栄養状態は非常に良かったと考えています。



3例目のヒレナガヤッコは現在飼育中の個体です。この個体、シュアーやメガバイト、乾燥ブラインシュリンプや冷凍ブラインシュリンプ等をよく食べ、順調に成長もしているのですが、採集減圧時の影響があったようで右目がひどいポップアイになってしまいました。しかも眼底からせりあがってレンズ部分には気泡が複数はいってしまうという重症で、もう3年ぐらい経ちますが完全には治っていません。

ただ最近、かなり良くなっては来ていて、気泡はほぼなくなり若干眼自体がせりあがっているという状態まで治ってきていました。このヒレナガヤッコの場合、ポップアイが酷くなった時に眼の突出に伴い周囲の鱗が脱落し、表皮欠損にまで進行してしました。ただ発症部位はあくまで突出した眼の周辺部分の表皮しか欠損はなく、ポップアイが良くなってくると鱗と表皮の再生も始まり、現在ではほぼ完全に治ってきました。



以上の3例が、私の経験した頭皮欠損症と思われる症例です。さて頭皮欠損症の原因に関しては硫酸銅治療の副作用によって起きる、という説があります。私の場合、飼育魚に白点病が出た場合は飼育水槽に硫酸銅溶液(銅イオン溶液)を添加して治療しますので、頻度や回数こそ少ないですが何らかの形態で水槽内に銅イオンは残留しているはずです。

そのため、世間一般で言われているように残留銅イオンが発症の原因である可能性は排除できません。またタテジマヤッコのみは他の魚が白点病に罹り銅イオン治療を行って数週間後に発症したので、私としては銅イオンが何らかの発症トリガーになっていると考えています(無論、銅イオン単独で原因となるというのではなく、他の何らかの要因と複合してでしょう)。









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