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海水魚飼育における雑談49



51.イトメ


さて今回の表題であるイトメ。おそらく淡水魚を飼っている人ならおわかりでしょうが、イトミミズと呼ばれて金魚屋さんや淡水熱帯魚店などで売られている、赤くて細くて塊になってウニョウニョしているアレです。



さてイトミミズとは少し難しく言えば、環形動物門貧毛綱イトミミズ科に属するミミズの一種で、お店で見かけるのは多分何種類かの近縁種の混合でしょう。水中の酸素が足りないかどうかを調べる指標動物になっているという、ちょっと面白い生き物でもあります。

最近では海水魚の餌として生きたイトミミズやアカムシを与えることは殆ど見なくなりましたが、私が海水魚飼育を始めた1980年代ではショップでも餌にしているのを結構見かけたものでした。

もちろん純淡水産の生き物で、メダカや熱帯魚のモーリーのように海水でも生きていけるわけはないので、海水中にばら撒かれたらあっという間に死んでしまいます。イトミミズよりはアカムシの方がほんの少し海水中で長生きしていたように記憶していますが、それでも数分以内には死んでいたと思います。

アカムシも海水魚に対する嗜好性はそれなりにあったのですが、幼魚や小型ヤッコ等では消化不良を起こすことがあったようで、イトミミズの方が多く使われていたようでした。



こんな海水中で直ぐ死んでしまい水を汚す生き物を餌としていたわけですが、当時ヤリテングのような小さく水槽の底を好んで泳いだり、ゲニカントゥス属のヤッコ等を餌付けたりするのに結構重宝したのです。特にゲニカントゥス属のヤッコはフレークやクリルに見向きもしなくても、このイトミミズを水流に乗せて流してやるとガツガツと食べ始めるのを私自身経験しています。

しかし人工飼料に比べれば栄養価という面では全く期待できないわけで(栄養素の比較となると乾重量で行った方が実際に近いと思いますが、イトミミズの体を構成する成分のかなりの量が水ですので)、このイトミミズだけを食べさせた場合結構な量を一日に食べさせないと、人工飼料に比べて魚を形良く太らせ、成長させることが難しいのは言うまでもありません(これは冷凍ブラインシュリンプ等も同じです)。

また、古くから海水魚を飼育している人なら記憶にあるかもしれませんが、1980年代にショップに入荷してくるキヘリキンチャクダイやホシゾラヤッコは着状態があまり良くなく、しかも比較的大きな成魚が多かったため本当に餌付かないというか餌付け難い魚でした。しかしどういうわけか、頑としてフレークやクリル、場合によっては殻付き冷凍アサリですら見向きもしない個体が、不思議とイトミミズは多少食べるという事が複数例あったのでした。

もちろんこの頃もフリーズドライした乾燥イトミミズや乾燥アカムシはあったのですが、やはり生きたイトミミズやアカムシの方が魚に対する嗜好性は遥かに高かったことと、費用的にもお得だったため、学生だった私はもっぱら生きたものを購入していました。しかしイトミミズしか食べないキヘリキンチャクダイは数週間で拒食してしまう事が多く、どうにも長生きさせるのが難しかったのです。

こんな何度かの経験を経て、イトミミズは栄養価が低い(人工飼料に比べて)だけでなく嗜好性が強すぎて他の餌を食べなくなってしまうので、海水魚を長生きさせるには不向きだと考え、使うことを止めたのでした。



今から比べれば何も知らないに等しいものの、いろいろと情報を集めた当時の私は、こういうイトミミズしか食べないような個体は薬物採集によって内臓にダメージを受けた魚かもしれない、と思うようになりました(逆に言えば、イトミミズは内臓にダメージを受けた個体でも食べる嗜好性の高い餌だとも言えます)。巷で言われていた薬物採集の魚が飼って2〜3週間で死亡する症例に、非常に似ているように思えたためです。

尚且つ、1980年代でも5〜10cm 程度の幼魚や未成魚は、きちんとアサリから餌付けてフレークを食べるようになる個体が多かったことも、この考えを後押しするものでした。

まあ、今の私であればキートドントプルス属の成魚は食性が固定化して人間が与える餌を頑として食べない個体が結構多い、という事を知っているので単純に薬物採集された魚だと考えないのですが、海水魚飼育を始めて数年目だった私は少ない情報量から短絡的にこのような結論に達してしまったのでした。当時を思い返すと、本当にものの考え方が単純で恥ずかしい限りです。



さて、現在の私はイトミミズを海水魚の餌付けに使おうとは思わないのですが、今でも餌付けを目的として海水魚に与えている人はいるのでしょうか?

それに、昔は熱帯魚(淡水)に上手く全部食べさせ、水槽の底に落ちて住み着く個体を減らし長生きさせるための器具(底砂を敷いている淡水魚水槽だと、その中に潜って瞬く間に繁殖して増え、環境の変化などで一気に死んで水質悪化を招くため)が何種類か売られていましたが、こちらもまだ売られているのでしょうか?

今度機会があったら、淡水熱帯魚のコーナーで探してみるのも楽しいかもしれません。



現在は、海水魚用の人工飼料は様々な種類が売られています。またショップオリジナルという触れ込みで粒上の人工飼料が売られていたりもします(これらの大部分は、養魚用の人工飼料でしょう。どこかで見たようなモノも売られていましたから)。

人工飼料以外にも冷凍ブラインシュリンプや昔のディスカスハンバーグを思い出させる冷凍餌等も売られています。餌という面からみても、昔と今ではかなり選択肢は広がっていますので、海水魚飼育も楽なったものですね。







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