今回は久々に昔の観賞魚誌ネタです。
1970年代初めの観賞魚誌を見ていると、とあるショップの広告でちょっと今では考えられないキャッチコピーを見かけました。それは「海水魚が生きる」です。
この広告を出していたショップの飼育方法というか飼育技術は、当時の海水魚業界でもかなり優れたものであったことは間違いないと、関連する様々な記事を読んだ私も認めます。
方式はサイドフィルターですが、昨今よく見かけるエーハイムなどの外部式濾過槽やワンタッチフィルターではなく、単純に言えば、60cm規格水槽の横に塩ビ製やガラス製の45cm水槽を置いて濾過槽として使うというイメージでしょうか。
まあ実際には、メイン水槽はもう少し大きな90cm規格水槽や120cm規格水槽を使うのでしょう。オーバーフロー水槽が一般的ではなかった当時、いかに管理しやすくして濾過面積を大きく取り、濾過能力を高くした上で安定にするか、という問題への一つの回答だったと思います。
面白いのはセットの中に「砂底そうじ器」なるものがあって、どんなものかというとわかりやすく言えば「水作プロホース」に該当するもので、見た目はホースがついた大きめの透明な箱で、ホースの先から水を吸うと透明な箱部分を被せた底砂からゴミを巻き上げ吸い出すという製品です。
ここまで書いておいて何ですが、今回私が気になったのはこのショップの飼育技術や方法ではありません。この当時、高級海水魚ブームとやらが起きていたと観賞魚誌に書かれていましたから、バブル期の海水魚ブームやニモによるカクレクマノミブームと同じように、海水魚飼育を楽しむ人が大幅に増えて高い魚もどんどん売れたのでしょう。
しかしこの趣味を始めた沢山の初心者は、その多くが上手く海水魚を飼えずにこれまたどんどん死なせたことは疑いようもありません。だからこそショップの実力を示すために、最初に私が驚いた「海水魚が生きる」という煽り文句を声高らかに謳ったのでしょう。
また「他店、他メーカーでは真似ができない技術」とも書かれていますので、このショップの広告を見る限り当時の海水魚を扱う一般的なショップの実力はそう高くなかったことも考えられます。
なにしろこの当時、濾過バクテリアのことは既に解明されていました。まあ今と比較すれば人工海水の質があまり良くなかったとか、飼育器具全般にあまり良いものが無かったとか、いろいろと不利な点が多かったのは事実です。
しかし最も大きな違いは、この当時立ち上げに必須なアンモニアと亜硝酸用のテスターが売っていなかったことでしょう。やはり一般の人にわかりやすく理解させるには、「見える化」することが重要なのだと改めて思い知った次第です。
面白いことに当時の別の頁の広告には、「如何にしたら海水魚を上手に飼育することが出来るのかの時代は過ぎて、何処産の、どの様な珍しい海水魚を所有しているかの時代です」という文章が誇らしげに載っていました。
この広告だけを見れば、先ほどの広告から受ける印象とは真逆に、1970年代初めになると海水魚飼育技術はある程度長く生かせることが出来るレベルになっていたのだ、と思ってしまいます。
まあ所詮広告ですから、なるべく興味を引き、嘘でない範囲でセンセーショナルな言葉を敢えて載せるのが一般的です。したがっておそらく、以前「海水魚飼育における雑談11」で書いたように、飼育器具の差によって今現在より多少下のレベルだったのではないでしょうか。
尤も、60cm規格水槽あたりで海水魚を飼育することに関しては、逆に基本に忠実であれば今の初心者より楽に飼えていたのではないかと密かに思っているのも事実です。ライブロックを入れるということが無かった為、泳いでいる魚が白点病などの病気に罹患すればさっさと薬物を投与して治療した時代でしたから。
まあバイメタル式サーモスタットやステンレス枠の水槽がポピュラーだった時代ですから、最近海水魚飼育を始めた方が想像もつかないようなトラブルで魚を殺してしまう事もあったとは思います。ともあれ、こうした古い広告を見ることは意外に面白く、いろいろと想像の翼を広げられるので私は好きです。