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海水魚飼育における雑談2



2.これまで調子良く飼っていた魚の拒食の原因は


飼育魚の拒食に関しては幾つかの原因が考えられ,実際に飼育者ができる有効な対応策は少ないのが実情です。

敢えて分類するとしたら,消化器官の器質的障害(内臓性ビブリオ症等による炎症や潰瘍等)を起こしている場合と,器質的障害が無くストレスからくる拒食や単純な消化不良(所謂糞詰まり)である場合に分けられるでしょう。もちろん他に主要な疾病があり,その悪化で拒食している場合はまずそちらを治す必要があるのは言うまでもありません。

また,濾過が上手くいっていない場合や換水を長期間していないため,アンモニアや亜硝酸,または硝酸塩等の蓄積による水質悪化も原因として考えられます。


器質的な障害がある

器質的な障害がある場合はもう内臓性疾患と言ってよく,エルバージュや抗生物質を餌に染み込ませて経口投与するのですが,拒食している場合はお手上げです。

人間であれば薬剤による内科的治療や外科的治療等,様々なバリエーションがありますが,魚の場合せいぜいエルバージュ(水量に対し規定量)やグリーンFゴールド顆粒に(水量に対し規定量の半量)よる薬浴を行ってやり回復を祈るしかありません。

残念ながら,このような症状が出た魚を治療する事は非常に難しく,もし治った場合は本当に運が良かったと言えるでしょう。


器質的な障害がない

では器質的な障害がないストレス性の拒食や糞詰まりの場合はどうでしょう。

ストレスの場合は,初期であれば病魚を一時的に隔離して落ち着ける環境を整えてやることで再び餌を食べるようになることも多いのです。しかし初期の兆候を見逃して完全に魚がまいってしまうと,隔離して環境を整えても治らない事も多いです。

糞詰まりの場合,大部分は拒食する期間が1日から数日間程度で,その後は一時的に摂食量が以前より落ちるものの再び餌を食べるようになることが多いです。大体数週間以内には,元の摂食量に戻ります。

しかし私も,1ヶ月近くほんの少し食べたと思ったらまた食べなくなる,という状態を繰り返した例を経験しています。このような場合は,少しでも口にする餌をとにかく与え続ける事です。

そうすれば,完全に拒食してしまう事はある程度防げます。また,このような時は拒食する前に食べていた餌の1サイズ小さいものを与えると,少量ですが食べ続けてくれることもあるため,いろいろな餌を少量ずつ試しに与えてみると良いでしょう。

水質悪化が原因である場合は,速やかに濾過システムに不具合がないか,また魚が飾りサンゴ等の陰で死んで遺体が放置されていないか,残餌が溜まっていないか,等をチェックして原因に対応する必要があります。

水質悪化の場合,拒食するまでに状況が進んでいると死亡までにあまり猶予が無いことが多いので,速やかな状況回復を行わなければなりません。




3.エラムシ症の養殖現場での治療法を参考に


以下の記載内容を参考にエラムシ症治療を行う場合,いかなる結果となっても自己責任にて行ってください。

養殖の現場では,様々な単生類によるエラムシ症が起こります。その現場で使われている薬剤がマリンサワーSP30であり,有効成分は過酸化水素(過酸化水素濃度45%,有効成分としては 0.66kg/1kg)です。

薬浴剤であるため,私達の治療の参考になります。効果効能はフグ目魚類の外部寄生虫(ヘテロボツリウム・オカモトイ未成熟虫、ネオベネデニア・ジレレ、シュードカリグス・フグ)の駆除、スズキ目魚類の外部寄生虫(ベネデニア・セリオレ、ビバギナ・タイ)の駆除,となっており,ハダムシ症への効能も持っています。ただし,医薬品としては先に上げた症状以外には適応を持っていません(効こうが効くまいが,副作用が出たり死んだりしても責任を持ちません,という意味で,食用魚では使ってもダメです)。

用法用量は、スズキ目魚類の外部寄生虫の駆除の場合,ハダムシの一種であるベネデニア・セリオレでは現場海水1t(海水は密度が1.0ではないので,体積は1000Lではなくもう少し増えます)に対し,本剤1kgの割合で混和し薬浴液とし,薬浴する魚は薬浴液1t当たり魚体総重量500kg以下として薬浴液中で3分間魚を薬浴する。とあります。

エラムシの一種であるビバギナ・タイの場合,現場海水1tに対して本剤1kgの割合で混和し薬浴液とし(これはハダムシの場合と同じ),薬浴する魚は薬浴液1t当たり魚体総重量100kg以下として薬浴液中で3分間魚を薬浴する。となっています。

作用機序としては,過酸化水素は不安定で酸素を放出しやすく,非常に強力な酸化力を持つヒドロキシラジカルを生成します。過酸化水素は活性酸素の一種ではありますが,フリーラジカルではありません。このように活性本体はオゾンからの分解物と同じ作用機序を持つものであり,効果や毒性なども似通ったものとなります。

さて,私達の身の回りで過酸化水素を主成分とする薬剤があります。それはオキシドールです。オキシドールとは医療用の外用消毒剤として利用される,2.5〜3.5 w/v%(過酸化水素2.5〜3.5g/100ml)の過酸化水素の日本薬局方名です。常温では無色の水よりわずかに粘度の高い弱酸性の液体で,水に可溶。僅かにオゾンに似た臭いがします。


マリンサワーSP30を重量%で示すと,66 w/w%(過酸化水素660g/1kg)となります。マリンサワーSP30は1kgを海水1tに添加しますから,過酸化水素は1001倍希釈されます。この時の薬浴用海水中の過酸化水素は659mg/L です。

これと同じ,もしくは近い過酸化水素量をオキシドールを使って作るには,オキシドール100ml を海水4.9L に添加します。計算してみればわかりますが,オキシドールの過酸化水素を平均値の3.0w/v %とすれば,約50倍希釈になるため600mg/L となるのです。

ただし3.5w/v %だと700mg/L になってしまい多少濃くなるので,安全を見越してオキシドール100mlを海水5L に添加すれば良いと思います。こうすれば最大でも686mg/L ですから,危険性はかなり低くなるでしょう。

無論,治療対象の海水魚の状態や個体差によって,薬浴によって魚が死亡する可能性はありますから,薬浴中は常に観察をして異常があれば速やかに普通の海水中に戻すことが必要です。 

実際にこの治療法を行った方が言うには,濃塩水浴よりは魚のダメージが低いとのことです。

このように過酸化水素は,25℃以上の水温では使用が難しい上に(魚への毒性が高くなる)種類によっては成虫には効果がない等の問題はあるものの,海水魚のハダムシ症やエラムシ症に対して効果が期待できるのです。

観賞魚用の白点病治療薬として売られているICHは,過酸化水素を主成分としており,過酸化水素そのものは昔から魚病治療に効果があることが知られていました。ではなぜ普及しないのでしょう。それは銅イオン等と同じように飼育水槽に投与した場合,過酸化水素の濃度維持が難しいからです。一応,発色剤と比色器で薬浴液の濃度を測る簡易濃度測定キットが数種類発売されています。

したがって過酸化水素の使用法としては,養殖と同じように短時間の薬浴が適していると言えます。調整して数分ならば,大きな濃度減少もないでしょう。







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