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海水魚飼育における雑談25



26.Chaetodontoplus 属のヤッコについて(2)


前回に引き続き,私がこれまで飼ったことのあるキートドントプルス属の中で,オーストラリアで採られる種類を紹介します。



4.クイーンズランドイエローテールエンゼル(Chaetodontoplus meredithi


 

《分布》

西部太平洋でも,東オーストラリア沿岸のみに生息するオーストラリア固有種です。より詳しく言えばカーペンタリア湾には生息していないそうで,その外側である珊瑚海沿岸(ニューギニアのポートモレスビー周辺にも生息しているとの情報もあります)の北側先端からシドニー辺りにかけて生息しています。


《特徴》

体色の基調は漆黒ですが,額部分,胸下部,尾鰭と腹鰭の黄色と,鰓蓋の後ろにある白色の横帯がアクセントを与えていて,渋いながらなかなか鮮やかな印象を与える魚です。顔の部分(鰓蓋から吻までの部分)は幼魚時には体色と同じ黒色ですが,成長と共に青くなっていきます。

雄の成魚はさらに黄色の明確なスポットが現れますが,雌では殆ど現れないか極小さく遠目には目立たない程度です。雄個体での黄色いスポットの現れ方は,最初に主鰓蓋骨部分とその上の頭部付近で現れ,その後前鰓蓋骨部分及びその上の頭部に,そして最後に前鰓蓋骨から口にかけての部分(頬の部分)に,という順番でした(3個体での確認)。

粗くて申し訳ありませんが,下の画像は現在飼育中の5代目個体です。我が家の水槽に迎え入れたときは8.5cmと小さかったのですが,2年間の飼育を経て14〜15cm 程に成長しました。顔の部分を見ていただければ,まだ頬の部分にイエロースポットが現れていない事が分かると思います。


 

成魚も25cm近くまで大きくなるか,または5〜6年間飼育していると,白帯は顔に近い部分より青っぽくなっていき,尾鰭も尾柄付近から徐々に黒っぽくなっていきます(私の飼育した個体は皆,5年目ぐらいからこうなりました)。

完全に成熟した成魚では,顔の青色がほぼ完全に白帯部分まで広がり,尾鰭も後端部分を残して黒色になる(ただし色の境目は綺麗に分かれていない)個体もいるようですが,そうではない個体もいる(実際に,又は書籍の写真で見たことがあります)ため,この辺りは良く分かりません。そのため飼育個体で尾鰭が黒っぽくなってきたり,白帯が青っぽくなってきたりしても,病気や体調不良ではないので慌てる必要は無いでしょう。


《大きさ》 

全長25cmと書かれている書籍が多いですが,一部書籍には30cmという記載も見たことがあります。私自身も過去に27〜28cmの雄成魚をショップで見たことがあるため,自然下では最大30cm程度まで大きくなると思われます(幼魚や未成魚からの水槽飼育では24〜25cm程度まででしょう)。

英語版Wikipedia では14inc(35.5cm)と書かれていますが,そこまで大きくなるのは西オーストラリア沿岸に生息する近似種のウェスタンイエローテール(パソニファー)エンゼルなのではないでしょうか。


《その他》

私は英名が長くて言いにくいため,学名の英語読みである「メレディティ」と呼んでいます。 

幼魚や10cm前後までの未成魚に関しては,輸送状態が良ければ餌付けにそれほど苦労する種類ではありませんが,輸送便によっては頑として餌付かない個体ばかりということもあります。内臓等に器質的な障害が無ければ,落ち着ける環境(キヘリキンチャクダイと条件は同じ)に収容して殻付アサリから始めれば餌付けることができると思います。

一度餌付いてしまえば,基本的に粒餌やフレーク等の人工餌も問題なく食べてくれる事が多いため,個人的にはキヘリキンチャクダイより飼育は楽だと思っています。

しかし15〜16cm を超えたような成魚の場合,食性が固定化しているせいか,または未成魚等より輸送に弱いせいか,殻付アサリを使っても餌付けるのに時間が掛かる,または餌付かないことが多いです。ただしこの大きさの個体は,1ヶ月程度であれば拒食しても回復不能なまでに痩せる事は無いので,ゆっくりと時間をかけて餌付ける事をお奨めします。私自身も,16cm以上の個体では餌付けるのに3〜4週間掛かることが殆どでした。

なお,日本ではクイーンズランドイエローテールエンゼルの方が流通量も多く(1990年代終わりまではこちらの種がほとんど),1980年代からパソニファーエンゼルという呼称で親しまれてきたため,今でもショップやマリンアクアリストの間では本種をパソニファーエンゼルと呼んでいることが多いようです。




5.ウェスタンイエローテールエンゼル(Chaetodontoplus personifer


画像はありません。


《分布》

カーペンタリア湾を挟んで西側であるティモール海からインド洋に面した西オーストラリア沿岸に生息しているオーストラリア固有種ですが,地元オーストラリアのダイビング関係や諸々の魚関係のHPを見ても,クイーンズランドイエローテールエンゼルほど詳しい情報は見当たりません。


《特徴》

体色や模様に関しては,クイーンズランドイエローテールエンゼルと殆ど同じであり,15cmを超える頃になると黄色一色の尾鰭に黒いブーメラン型の模様が入る事で見分けることが可能です(ただしこの黒模様は個体差があるようです)。

完全な雄の成魚では尾鰭の途中まで黒色が広がるそうですが,濃淡は別として同様のことがクイーンズランドイエローテールエンゼルでも起きるため,完全な雄の成魚では魚類学者でもなければ見分けることが難しいのではないかと思います。


《大きさ》 

全長に関しては,クイーンズランドイエローテールエンゼルよりは大きくなると書かれている書籍もあり,最大約35cmになると言われています。

これまで輸入された本種の個体を見る限り,もしクイーンズランドイエローテールエンゼルと同じ成長速度であると仮定した場合,同サイズでは本種の方がイエロースポットは薄らとしていても大きめの事が多いですが,顔の部分は青の発色が弱くまだまだ黒っぽい個体(幼魚のカラーパターンが強く残っている)が殆どであったことから,やはり本種は最終的にクイーンズランドイエローテールエンゼルよりも大きくなると考えられ,書籍情報と合致します。

おそらく自然下では最低でも30cm程度まで成長するのではないでしょうか。尤もポマカントゥス属のマクロススでは,生息域の違いで成魚への体色変化速度に差があるため,一概に私の考えが合っているとは限らないのですが。


《その他》

種としての記載はクイーンズランドイエローテールエンゼルよりも70年以上早いにもかかわらず,実際に日本に入ってきている数は遥かに少ないヤッコです。

これは1989年まで東オーストラリア沿岸に生息するクイーンズランドイエローテールエンゼルも,ウェスタンイエローテールエンゼルと同じ種であるとされてきたため,国内の業者が輸送距離やコストがかかる西オーストラリアからわざわざ本種を取らなかったためです。

別に生息数が少ないとかではないでしょう。私は英名が長くて言いにくいため,学名の英語読みである「パソニファー」と呼んでいます。

私も過去に1個体しか飼ったことがないためはっきりと断言はできませんが,飼育に関しては基本的にクイーンズランドイエローテールエンゼルと同じだと考えてよいでしょう。幼魚や小さな未成魚が輸入されることは滅多に無いため,ショップで餌付いておらず状態が同程度ならば,なるべく小さな個体を購入した方が餌付けは楽でしょう。

こちらの種は,日本ではクイーンズランドイエローテールエンゼルに比べて輸入された個体数が遥かに少ない事もあって,ショップやマリンアクアリストには本物パソニファー(略して本パソ)と呼ばれているようです。



6.スクリブルドエンゼル(Chaetodontoplus duboulayi


 

《分布》

生息域は東西オーストラリア沿岸とニューギニア南部となっており,所謂パソニファーエンゼル(クイーンズランドイエローテールエンゼルとウェスタンイエローテールエンゼルを併せたもの)より広く分布しています。とはいっても輸入先は東部オーストラリアか西部オーストラリアに限られているようなので,オーストラリア固有種(特産?)と言っても問題ないかもしれません。


《特徴》

本種は雄雌で体形や模様が明確に異なるため,キートドントプルス属の中で雄雌の見分けが容易です(クイーンズランドイエローテールエンゼルとウエストイエローテールエンゼルも,17〜18cmに成長すれば雄雌の見分けが可能です)。

体色は前鰓蓋骨から口元にかけて暗青色の横帯(アイバンドというには幅広い),主鰓蓋骨から胸鰭後ろにかけて黄色の横帯を持ち,口元から吻にかけてと尾鰭は黄色。それ以外の体色の基調は暗褐色で,背鰭と尻鰭には青色のラインが複数入ります。

未成魚の場合,体形は丸みを帯びて背中から尾柄にかけて黄色のバンドが現れ,体側部には青く殴り書きのような模様が現れます。雌の成魚は体形的には未成魚とあまり変わらず,体側部の網目模様はだんだんと暗褐色一色に塗りつぶされてきます。一方雄の成魚の場合,体形は雌に比べ前後に長くなり,体側部の模様は整った青く細い多数の縦縞模様へと変わっていきます。

東オーストラリアの個体に比べ,西オーストラリア産のものは黄色の部分が濃くオレンジ色に近くなりますが,それ以外では特に差はありません。

現在,2014年6月に購入した未成魚を飼育中ですが,これは我が家に迎えた際に約11cmで,このサイズでも飼育環境によって雄に出来るかどうかを試す良い機会でした。

この1年間の飼育で,体側の背鰭側の上1/3程が殴り書き模様が消えてほぼ暗褐色一色になり,雌になってしまったかと残念に思っていたのですが,ごく最近その暗褐色部に雄に見られるような比較的縦線に近い模様がドット線のように浮き出てきました。ひょっとすると,上手い具合に雄になってくれるかもしれないと期待を持てるようになりました。


《大きさ》 

全長25cmと書かれている書籍が多いですが,過去に27〜28cmの雄成魚をショップで見たことがあるため,自然下では30cm程度まで大きくなると思われます。


《その他》

飼育に関しては,17〜18cmを超える成魚ともなれば典型的なキートドントプルス属の特徴を色濃く持ちますが,幼魚や未成魚では他のキートドントプルス属に比べかなり楽だと個人的には思っています。 

一度きちんと餌付けてしまえば胃腸も丈夫なようで,滅多に消化不良や拒食になったりしませんし,基本的に何でも良く食べ,性質も温和です。

雌の体色の方が好きという方は組合せなどを特に考える必要もありませんが,未成魚を雄の成魚にしたいという方の場合,クイーンズランドイエローテールエンゼル等と同様に水槽内で一番強い存在にしてやる必要がありますから,ポマカントゥス属やホラカントゥス属の大きくなるヤッコと混泳させることは避けましょう。





私が未だ飼育したことが無く,一般に入手可能なキートドントプルス属のヤッコとして,キンチャクダイ(Chaetodontoplus septentrionalis ),コンスピキュアスエンゼル(Chaetodontoplus conspicillatus ),グレイテールエンゼル(Chaetodontoplus poliourus )がいます。

コンスピキュアスエンゼルの場合,値段的なものからなかなか購入することが躊躇われますが,他の2種はいずれ手元でじっくりと飼育してみたいと思っています。

尤も現在の飼育システムというか水槽数では,全てを同時に飼育することは困難なのも事実です。今飼育しているどれかの個体がいずれ落ちてしまったときに,タイミングよく入手できるのであればチャレンジしようと思っています。









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