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海水魚飼育における雑談24



25.Chaetodontoplus 属のヤッコについて(1)


以前にも私はキートドントプルス属のヤッコが大好きで,これらをメインで飼育するためにポマカントゥス属やホラカントゥス属のヤッコを飼育していないと書きました。

15cm以上の個体2匹以上が,独立して使える(お互いに干渉しない距離の)隠れ家を作る事は90×45×45cm以下の水槽だと難しいため,120cm以上の水槽でないと同種,異種を問わず複数のキートドントプルスを長期間飼育することは,基本的に難しいと考えています。

したがって,キャリアの割には半分ほどの種しか飼育したことがないのが実情です。とはいっても,それなりに情熱をかけてきたこともあり,これまで飼育したことのあるキートドントプルス属のヤッコに関して,簡単にまとめておきます。

この属全般的な事を言えば,キートドントプルス属は全ての種が西部太平洋(日本南部から台湾,ベトナム,フィリピン,インドネシア,ニューギニア,オーストラリアにかけて)に分布するという,比較的狭い範囲に生息するヤッコで,全長は15〜35cm という中型ヤッコと呼べるグループです。体型はシルエット的に台形から四角形であり,他のヤッコとは少し異なる雰囲気を持っています。

性質はヤッコの中では温和で,十分な水量を持つ水槽でないと自分と同等か大きいポマカントゥス属やホラカントゥス属のヤッコと混泳させた場合,徐々に押されてストレスを蓄積し,拒食に陥ることがあります(または餌は良く食べていても形良く太らない)。

とはいっても縄張り意識は相応に強く,飼育環境に適応し慣れてくれば他の魚(ヤッコやチョウチョウウオの仲間を)を追いかけたり,突っかかって排除したりと,ヤッコの仲間らしい性質を見せるようになります。

また,水質にもチョウチョウウオ類並みに敏感なところがあり,鱗が非常に細かいせいもあって白点病や細菌性皮膚疾患等に罹り易い気がします。このうち細菌性皮膚疾患に関しては,水量に見合った殺菌灯等の設置でかなり防ぐことができます。

食性は雑食性で幼魚や未成魚の場合,一度餌付いてしまえば人工餌(フレークや粒餌)もえり好みせずに食べますし,冷凍ブラインシュリンプ等も好きなようです。しかし一度背肉や腹部を痩せさせてしまうと,再び元のように太らせることが難しく時間もかなりかかるため,餌食いが落ちるような場合はストレス源から引き離すなり,相応の対応を取った方が良いでしょう。

成魚に関しては元々神経質なのか,それとも輸送に弱いのか(輸送の際にもっと多くの水量が必要かもしれません)不明ですが,輸入直後のものは状態を崩していること(スレ等による皮膚炎症や様々な原因からくる拒食が主です)も多々あります。

特に餌付けに関しては,食性が固定化しているのか,採集や輸送によって内臓に器質的な障害があるのか,原因の特定は困難なこともあり,なかなか難しい部類に入ると言っても過言ではありません。しかし幼魚や未成魚は成魚よりは輸送ダメージが少ないことが多く,環境変化にも適応しやすいので比較的飼育が楽でしょう。

健康な個体を選び殻付アサリから始めれば,通常はきちんと餌付くはずです。私の経験上,それぞれの種の最大全長の半分(最大全長×0.5)までの,採集,輸送,受け入れ,に関して問題がなく,その上疾病や障害がない個体であれば,餌付けもそれ程難しくありません。これが最大全長の6割以上の個体ともなると,運の良い個体以外は餌付けに根気とテクニックが必要になってくるでしょう。

またこの属の未成魚は10〜12cmぐらいまでの大きさだと,とにかく飼い主が水槽に近づくとコロコロと寄ってきて,水槽前面に出てきて元気良く泳ぎ回る姿を見せてくれます。しかしさらに大きくなってくると飼い主に対して素っ気ない態度を示すようになり,それでも眼は結構こちらの動きを追っているという,ちょっと人間臭いところがあります。

ではまず,キートドントプルス属の中で,日本や台湾,フィリピンで採られる種類を紹介します。



注)なおこの頁で用いた画像は,海水魚専門店VESSEL様の許諾を受け使用しています。



1.キヘリキンチャクダイ(Chaetodontoplus melanosoma


 

《分布》

主にフィリピンやインドネシアから輸入されますが,この属の中ではチリメンヤッコに次いで分布域が広い種で日本沿岸(四国辺り)からフィリピン,インドネシア,ニューギニア辺りまで生息しています。日本沿岸(四国から相模湾にかけて)にも生息していますが,なぜか沖縄にはほとんどいないようで沖縄便では入ってきません。日本にはほとんどフィリピンかインドネシアから輸入されてきます。


《特徴》

基本的に体色は黒色で額部分に黄土色の不規則な網目状の模様を持ちます。

ただし,@尾鰭の中央が黒くそれを囲む黄色の縁取り(成長して成魚になれば,付根付近の黄色は黒くなる)を持ち,未成魚の段階から体の上半分のかなりの部分が灰色,というカラーパターンと,A尾鰭は黄色一色(中央部に黒く細い横帯が入るものもいる)で,未成魚の段階では体色も頭部から斜めに体側上半分の前方が灰色で残りの大部分は黒一色(成魚になれば体側上半分の大部分が灰色を占めるようです),というカラーパターンの2種類がいます(実際に見たことはありませんが,地域によっては尾鰭が@のパターンで体色はAの未成魚パターン,というカラーパターンもあるようです)。


《大きさ》 

全長は情報源によって異なりますが,18cm,又は20cmと書かれている事が多いようです。実際に19cmの成魚個体を飼育したこともあるので,自然下では最大20cmまで大きくなると考えてよいと思います。ただし,幼魚から水槽飼育した場合の成長は,16〜18cm程度なのではないでしょうか。


《その他》

日本ではAのカラーパターンと@のパターン,両方の個体が見られます。これが地域的なバリエーションなのか,種が異なるのか,まだまだ研究中のようですが,@とAのパターンの生息地は被っているようなので,結果がどうなるのか楽しみにしています。 

飼育に関しては,私は@のカラーパターンの個体しか経験がありませんが,典型的なキートドントプルス属の特徴を持っており,輸送状態が良ければ(薬物採集の影響や器質的な内臓障害がなければ)10cm以下の個体は餌付けもそれ程苦労しません(自分より大きなヤッコの仲間がおらず,クマノミや一部スズメダイの仲間のように小さくとも気が強くチョロチョロと目障りに感じる魚がいない,という収容環境の場合です)。

しかし,フルサイズに近い成魚の餌付けには時間と工夫が必要となります。私自身,過去にかなり苦労しましたし,餌付けられない事も多かったです。

飼育する場合,なるべく10cm以下(5〜8cm程度の幼魚や未成魚)で目付きや挙動がしっかりとした,水槽内を悠々と泳いでいる個体を選びましょう。背肉が落ちていたり,落ち着きのない泳ぎ方をしていたりする個体は餌付かない事が多いです。状態の良い個体であれば,収容先の水槽が水質的に問題なく,先に述べたような環境にしてやることで容易に餌付けられる筈です。

長期飼育を考えるのであれば,混泳に関してはキヘリキンチャクダイがボスとなるようにタンクメイトを選んでやれば,渋いながらも独特の体色で存在感のある成魚に成長してくれるでしょう。

後,白点病治療に用いる硫酸銅溶液などの銅イオン治療に対しては,他の種類よりやや敏感なところがあるようです。チョウチョウウオ等が特に異常が出なくても,消化器系の器質障害(薬物誘発性の胃炎もしくは胃潰瘍と思われます)を起こして餌食いが極端に落ちる事があります。

このような症状が出た場合,取り敢えずいつも与えている粒餌はサイズを1ランク小さいものを与えて少しでも餌に対する興味を無くさないようにしながら,銅イオン治療が終了してから1週間〜10日ぐらいで全水量の半分ぐらいの換水を行い銅イオンの残存濃度を下げてやれば,大体1ヶ月半〜2ヶ月ぐらいで餌を食べるようになります(もちろん,消化器官の障害度合いによって治らない場合やもっと時間が掛かる場合もあります)。ただし,しばらくは以前より摂食量が落ちますから,何度かに分けて少量ずつ餌を与えるなど工夫が必要です。



2.チリメンヤッコ(Chaetodontoplus mesoleucus


 

《分布》

キートドントプルス属の中で最も広範囲に生息する種で,日本沿岸からフィリピン,インドネシア,ニューギニア,オーストラリアで見ることができます。日本では奄美大島以南に生息し,他のキートドントプルス属より生息数も多く,沖縄でもサンゴ礁の海で比較的簡単に見られるようです。日本にはフィリピンかインドネシアから輸入されることが多いです。


《特徴》

キヘリキンチャクダイ等と比べると,全長に対して体幅がやや薄く全体に丸みを帯びており,同属他種と少し異なったシルエットを持つ種です。

体色は白色を基調として体後半は薄い黒色で,体側全域に薄い虫食い状の模様,顔には黒く明瞭なアイバンド,それより前の部分は黄色で紫色の口唇,さらに背中から背鰭にかけての部分,そして尾鰭は黄色,というじっくりと見ればなかなか可憐なヤッコと言えます。


《大きさ》 

大型の個体が輸入されることは殆ど無く小型種と思っている人もいるようですが,書籍に寄れば最大で18cm程に成長するようで,ほぼキヘリキンチャクダイと同じぐらいまで大きくなります(体型が横方向にも大きくなるので,実際の全長より大きく見える)。


《その他》

昔はシンガポールからたくさん輸入されていたようですが,シッパー側の問題で輸送状態が悪いために死亡率が高く,弱い海水魚の代名詞のような言われた時代もあったとか。

一見するとヤッコよりチョウチョウウオのような印象を与えますが,典型的なキートドントプルス属の特徴を持っています。餌付けや基本的な飼育条件は,キヘリキンチャクダイの項で書いた内容とほぼ同じですが,水槽に慣れると意外に気が強く喧嘩っ早い側面を見せてくれ,こうなれば自分より大きなポマカントゥス属等のヤッコと同居させても問題ありません。そういう意味では,餌付けてしまえば楽なキートドントプルスと言えます。



3.ホシゾラヤッコ(Chaetodontoplus caeruleopunctatus


 

《分布》

生息域はフィリピン周辺の比較的狭い範囲に限られるようで,他の地域から採集・輸入されることは殆どありません。したがって日本には生息しておらず,ホシゾラヤッコというのは海水魚業界で勝手につけたあだ名のようなものであり,和名ではありません。


《特徴》

体形はキヘリキンチャクダイとほぼ同じで,Aの未成魚でのカラーパターンに近いですが頭部付近は暗い黄土色であり,黒色の体側部に細かなブルースポットが現れます。体調が悪いと,このブルースポットや体色のコントラストがボケたように目立たなくなりますので,日頃の体調管理でも異常があれば比較的発見しやすいと思います。


《大きさ》 

全長は大体どの書籍でも14〜15cmとなっており,キートドントプルス属では最も小さい種とされることが多いです。しかし標本写真等で20cm近い個体を見たこともあるので,実際に自然下では最大で20cm程度までは大きくなると思われます。


《その他》

1980年代には成魚,幼魚共に結構輸入数が多かったように思いますが,なぜか最近ではコンスタントに見かけることは少ないようです(特に幼魚は)。そういう意味では,クイーンズランドイエローテールエンゼルやスクリブルドエンゼルと同様に生息域が狭く,フィリピン固有種と思われ貴重な魚のはずなのですが,扱いに関しては結構雑で希少性が認識されているとは思えないイメージがあります。

餌付けや基本的な飼育条件に関しては,キヘリキンチャクダイとほぼ同じと言えます。ただし水槽内では成長してもせいぜい15cm程度と思われますので,10cm以下の個体を選んだ方が餌付けは楽ですし,同居魚に関してはその点を考慮してください(チョウチョウウオに関しては,ホシゾラヤッコより大きな個体に対しても強気に出て威張りますので,あまり考慮する必要はありません)。

私も2014年に,20年ぶりに8cm程の個体を手に入れて飼育中ですが,検疫水槽に収容して2日程でフレークや粒餌を食べるようになりました。その際の混泳魚は,やや小さなチョウチョウウオ系1匹と4〜5cmのデバスズメ4匹で,チョウチョウウオ系は殻付アサリの摂食を誘導するため,デバスズメはフレークや粒餌の摂食を誘引する役割を持たせていました。

一度しっかりと餌付けば,たまに殻付アサリをあげても(豆チョウのために2〜3日に1回与えています),偏食するような事はないようです。









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