今はもう無くなってしまった,海水魚専門誌である「トロピカル・マリン・アクアリウム」。1983年創刊で当初は季刊誌でしたが後に隔月刊となり,2000年に休刊となりました。
編集部というか発行元が,東京に住んでいた頃に私鉄で1駅しか離れていなかったので,ちょこちょことお邪魔していた関係もあり,比較的まじめに購入していました。
1996年頃に数回に分けて「海水魚飼育器具 ニューウェーブ」という連載がありまして,もう18年前の事になるのは驚きですが,そこで紹介されていた飼育器具が現在ではどのようになっているか振り返ってみようと思います。
このシリーズは以下のように9回(第5回が上下で2回に分かれているため)に分けられて掲載されまして,内容は以下の通りです。
第1回 反硝化フィルター:デニボールを含めた濾過システムとして紹介。
第2回 レドックスコントローラー:オゾナイザーの制御用として紹介。
第3回 流動性生物濾過装置:その時点で販売されていた円筒型と箱型タイプを紹介。
第4回 プロテインスキマー:アウトサイドスキマーを始め,当時の様々な種類を紹介。
第5回 ヒーターとサーモスタット(上下の2回):この頃のバリエーション紹介。
第6回 インバーター方式蛍光灯:より安価なLED照明により駆逐された?
第7回 カルシウムリアクター。炭酸カルシウムからpHコントロールでCaイオン発生。
第8回 炭酸ガス発生装置:カルシウムリアクターでの使用を前提に紹介。
このうちカルシウムリアクターと炭酸ガス発生装置は,ハードコーラル等の飼育には非常に有用ですが海水魚という観点からは飼育に必須という装置ではない上,海水魚のみの混泳水槽ではあまり設置する意味もありませんから割愛します。
さて反硝化フィルターですが,今でも何種類かの製品がショップオリジナル品も含め存在します。
過去に色々と宣伝されたデニボールを始め,私がリンクを貼らせていただいている海水館さんのデニトロゲンなど生分解プラスチックを用いた素材を嫌気性の還元濾過細菌の餌として用い,硝酸塩から亜硝酸を経て窒素ガスにする反応を起こさせ,飼育システム中の硝酸塩を低く保つためのものです。
効果としては,飼育海水中の硝酸塩濃度を下げて低く保つため,水換の間隔を長くすることで手間と費用を抑えられるというところでしょうか。また,硝酸塩濃度に敏感なクイーンエンゼルやブルーエンゼル等の退色防止にも効果があるかもしれません。
ということで理論的には非常に有用なものですが,きちんと使用しないと一時的に亜硝酸濃度が増えることや,嫌気的条件を作ったり維持したりすることの面倒さからか,意外に普及しなかった(現在進行形であまり普及していないといえるかもしれません)という気がします。
次にレドックスコントローラーですが,昨今ではほとんどお目にかかれません。しかし,そのパーツの一つであった酸化還元電位センサーは,現在でも売られています。ご想像の通り,使われ方としては当時の記事と大分異なっているようです。
海水魚の混泳水槽はもとより,無脊椎動物主体の水槽でもオゾナイザーを使う方はあまり多くないようで,上手に使えば白点病予防に効果があるとの報告もあるのに一般化しなかったようです。
したがって,オゾナイザーの制御用としてはレドックスコントローラーも普及しませんでした。
なおオゾンによる白点病予防に関しては,リンク先の海水館さんのHPで詳しく解説されているため,そちらを参照してください。私自身はその目的で使ったことがないため,きちんとしたデータを示すことができません(オゾンの理論的な殺菌効果に関しては,雑学を参照してください)。
では最近の使われ方はいうと,酸化還元電位は無脊椎動物主体の水槽で水質管理のマーカーの一つとして用いられており(海水中の有機物量の変動のマーカー),センサーが検出した値を見て様々な対応を行うのです。
酸化還元の定義は幾つかあるのですが,酸化還元電位が高い(+の値)ということは,海水中に酸素が,または水素などの電子を供与できる物質が多く含まれているということで,一般的にはこの状態の方が水質的に良いと言えます(無論,高すぎれば生物に有毒です)。
測定の原理はpHとさほど変わらないのですが,電極に用いられている物質が異なります。まあ,当初はオゾナイザーの制御ぐらいしか応用例がなかったものの,無脊椎動物の飼育が一般化したおかげで手軽に細かい水質変化をモニターできる指標として普及したということでしょうか。