トップ プロフィール  海水魚今昔  濾過とは 水槽の立上げ  日々の管理  海水魚の病気と対応 雑学


海水魚飼育における雑談18



19.1980年前半の海水魚飼育


私はこれまで,主として1960年代後半から1970年代前半の観賞魚雑誌に書かれている記事や広告を元ネタとして,「雑談」の各項を書いてきました。では1970年代後半から1980年代前半について書いてこなかったのはなぜでしょうか。

結論を言ってしまうと,「海水魚飼育の今昔」の1980年代で書いたように,この頃には海水魚に限った飼育法がほぼ完成していたため,ネタにするほどの内容がなかったためです。

はっきり言ってしまうと,私が海水魚飼育を始めた1980年代前半と比較して,魚に限った飼育法の原理は殆ど変っていません。

濾過(硝化作用)の原理は1960年代に明らかになっていましたし(無論,この頃には反硝化作用を上手く利用して硝酸塩を除去する考えは殆どありませんでしたが),濾過システムに関してもOF式,上部フィルター,底面フィルター,密閉式フィルターと,流動濾過フィルターを除いてウエット式はほぼ全ての種類が使われていました。

UV殺菌灯,オゾナイザー,プロテインスキマー(小型しかありませんでしたが)も販売されていましたし,海水魚飼育に関してこの頃不足していた製品はバクテリア製剤ぐらいで,それ以外は値段の高低はあるにせよほぼ出揃っていたと考えています。



ただし,今ほど製品としてシステム化されておらず,個々がバラバラに売られていたためユーザー自身が完成させる必要がありました。

OF式はあったとはいえ,今のようにメーカー既製品として加工済み水槽や濾過槽,配管部品がセットになって複数の会社から販売され始めたのは,1990年代後半からだったと記憶しています。

1980年代初めでは当然,OF水槽をセットしようとすればパーツ毎に購入して自分で配管作業をするか,海水魚に強くて出張セットに応じてくれるショップを探し出して依頼するしかなかったのです。

となると,海水魚を扱っていて知識や技術のあるショップを探し出す必要がありますが,その作業はインターネットが発展した現在とは比較にならない程大変でした。何しろ探し出すツールが,ほぼ観賞魚雑誌の広告しかないのですから。

そのため,東京を含めた首都圏や大阪,名古屋等の大都市圏は別にして,地方で飼育を始めた初心者は既製品を上手く組合せる必要があったのです。



1970年代と違って,この頃には観賞魚雑誌も二つに増えていました。そのため,海水魚飼育に関する情報源も2倍になっていたわけです。

1981年のアクアライフとフィッシュマガジンを見てみると,アクアライフでは「小型水槽で海水魚を飼う工夫」,フィッシュマガジンでは「実践的海水魚飼育術」という連載記事が,海水魚飼育の初心者から中級者向けに掲載されています。

どちらもメインは初心者向けですから,いかに近くの熱帯魚ショップで入手可能な製品(一部淡水熱帯魚専門のショップでは,入手できそうもないものもありましたが)を利用して海水魚を飼育するか,60cm規格水槽レベルでの海水魚飼育の注意点や工夫点は何か,が書かれており,私も当時大いに参考にしたものです。

内容的には底面フィルターや上部モーターフィルター,場合によっては塩ビ配管でのサイフォンを使ったサイド濾過(普通の水槽に底面フィルターを使用したもの)等,なるべくコストを掛けずに海水魚飼育に馴染んでもらい,なおかつ実践で海水魚飼育の基本的知識を学んだ上でステップアップを促すようなものですから,ベテランや中級者の眼で見れば物足りなさを感じるでしょう。

さらに1983年夏には海水魚専門誌が発行され,基本的な情報が改めて詳しくアクアリストに広められる結果となりました。

トロピカル・マリン・アクアリウム(当初は季刊誌)という海水魚専門誌は,偶々出版社が当時住んでいた実家の近くだったため色々とお世話になりましたが,アンモニア,亜硝酸だけでなく,当時は無害と言われていた硝酸塩の蓄積も魚に悪影響を与える事を知らしめたり,単生類によるエラムシ症やハダムシ症の存在をレポートしたりと,さらなる海水魚飼育の普及に貢献したと思っています。



この頃はまだまだ世界は広く,海外の情報も簡単には入手できなかったため,やれ紅海の魚が新しく入るようになっただの,中部太平洋から新しいケントロピーゲ属が輸入されただの,楽しいニュースに事欠かなかったように思えます。

まあ,それが歳を取った証拠なのかもしれません。しかしこの頃の記事のように,まずはコストを掛けずに海水魚飼育を始めてもらってすそ野を広げていこうという趣旨には,私自身も大いに賛同します。

やたらと高価な器具を使ったシステムでなければ海水魚は飼えないのだという認識を持たれてしまうと,昨今のような電気代のupやGDPのマイナス成長等という不景気によって,マリンアクアリスト人口は先細る一方なのではないでしょうか。

無論,こういう低価格の商品しか売れないとショップとしても困るのは分かりますが,工夫次第で初期コストをそれ程掛けずとも海水魚飼育は楽しめるという事を,観賞魚誌も専門ショップも啓蒙してほしいなと思う昨今です。ただ,こういう小型水槽で工夫して上手く飼育するという行為自体が,どちらかというとベテラン向けという事実もあるのですが……。







戻る/次頁へ
inserted by FC2 system