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海水魚飼育における雑談11



12.時代と飼育レベル



1970年の観賞魚誌を読み返していたら,アクアリストの水槽紹介というか訪問記事で,とあるマリンアクアリストの記事を見つけました。キャリアは4年と書いていましたが,これは現在の4年と同じに考えることはできません。

なぜなら情報量というか飼育ノウハウに関して,桁違いなほど差があるからです。この頃はまだオーバーフロー(OF)式水槽もポピュラーではありませんし,魚のみの水槽であっても白点病に罹ったら治療方法が確立されていると言えない時代です。もちろん,サンゴ類を飼うシステムなど夢また夢だったのですから。

記事中, 120cm(奥行60cm)の水槽2本でグレーエンゼル,ブルーエンゼル,クイーンエンゼル,アデヤッコ,タテジマキンチャクダイ,キヘリキンチャクダイ,キンチャクダイ等,この当時のお金で30万円相当の魚を飼育しており,この方は相当熱心に飼育技術向上を目指している様子がうかがえました。


ショップのコメントも,この方ほど熱意のある人は少なく,飼育技術はショップより上だろうとあります。そのような方でさえ,半年以上生かすのは難しいとコメントしているのです。

現在では,ヤッコに関して言えば5〜6年飼育している方は結構いますし(種類は様々でしょうが),中には10年以上飼い込んでいる方さえいます。チョウチョウウオでさえ,数年以上飼育することは,ある程度ノウハウを持ち自制心がある人ならば難しくはありません。

無論,この頃の観賞魚誌でこれ以上の期間,海水魚を飼育しているという記事は見ることができますから,もっと上手い方もいた筈です。水槽に対して適切な量の魚を飼育している場合,普通に1年以上飼育できる筈ですから。ただ,それでも大抵の人は長くて2〜3年だったように見えるのです。


この差はどこにあるのでしょうか。私なりにその原因を考察してみると,最大の理由は濾過システムの効率化と可視化により水質の安定が容易になった事,それにヤッコやチョウチョウウオ等の飼育経験が積み上げられ,組合せ等の情報が共有化された事,だと思います。

この考えに基づいて検証してみると,紹介記事の水槽は私のメイン水槽とほぼ同じ大きさと思われるため,まず15cm前後のヤッコを6〜7匹混泳させることは,飼育システム上適切な濾過能力を持たせることができれば何とか許容範囲内(記事の水槽は濾過システムが不明です)でしょう。

ただしヤッコ類は良く食べますし,その分アンモニアや糞の排泄量が多いため,個人的にはOF式水槽でしっかりとした濾過槽が正常に機能している事が前提になり,それでもその後の成長を考慮すると結構ギリギリだと思います。

次に組合せに関してですが,ヤッコ類は自分のお気に入りの隠れ場所や,夜に自分だけの寝場所が確保できないとかなりストレスが溜まるようです。混泳させる数が多くなれば,飾りサンゴや岩などで隠れ家(寝場所)を必要数作る事は難しくなります。

さらにヤッコやチョウチョウウオを始めとする海水魚は,総じて縄張り意識が強いこともあり,120cm水槽でこれだけの数を飼うには,喧嘩やストレス蓄積という面から管理にそれなりの観察力と対応が必要となります。

半年間飼育していると魚も成長しますから,パワーバランスにも変化が起こり強者間での威嚇合戦を経て,小競り合いや喧嘩が発生し当事者だけでなく周囲もストレスを蓄積させます。このように濾過能力とは別の観点から,個々の水槽での飼育適切数が決まってしまう場合は多々あるのです。 

おそらくこの時代,参考となるのはショップの水槽であり,喧嘩を防ぐために飾りも無くし(縄張りを意図的に作らせない),一時的な収容ということもありかなり過密に入れる(あくまで売れるまで一時的に水槽に入れている),とショップとしての事情や工夫を目の当たりにしているため,なまじ隠れ場所を作っているホームアクアリウムの水槽との環境的な違いを考察するだけの知識が不十分だったのではないでしょうか。


今では様々な情報が共有化され,組合せの重要性やストレス蓄積が様々な体調異常の引き金になる事が知られるようになっています。「魚を入れすぎない」という事が濾過能力だけの問題ではない,と理解しておけば,飼育している魚達も負荷が減りそれだけ長生きしてくれると思います。







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