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海水魚飼育における雑談10



11.白点病の硫酸銅治療を振り返る



無脊椎動物と海水魚を一緒に飼っている水槽では使えませんが,海水魚の白点病とウーディニウム病の確実な治療方法として,現時点で最も強力なものが銅イオンを用いる方法であることは間違いありません。

無脊椎動物が一緒の水槽で銅イオンを用いない理由は,無脊椎動物に対しての毒性が強く低濃度でも致死的であるためです。しかし銅イオンに対する感受性は無脊椎動物でも種によってかなり異なります。

実際に私自身,過去にスカンクシュリンプが入っている水槽で銅イオン治療を行ったことが2回ほどあります(別々の個体)。結果として,スカンクシュリンプはほとんど影響を受けずその後も元気に脱皮して成長したので,案外エビの仲間は銅イオンに対し耐性があるのかもしれません。


この硫酸銅ですが,いつごろから海水性白点病の治療に使われ出したのでしょう。いろいろな資料を見ると,当初(昭和30年代)は白点病に悩む水族館が濃度や投与間隔等の条件検討を行い,昭和37,38年頃には硫酸銅を用いた治療方法を確立したようです(江ノ水族館の方の記事より)。

それ以前は,水族館でも初夏から夏にかけて大抵の所(もちろん海水魚水槽)で発生し,そうなったら治療法がないため魚を大量に殺してしまう事が多かった,と書かれていました。

昭和41〜42年に海水魚飼育のブームがあったようで,この時に輸入業者や小売業者が一気に増えたそうです。昭和42年の観賞魚誌に海水性白点病の治療法が掲載されていますが,それは動物用駆虫薬のネグホンと硫酸銅をそれぞれ0.5ppmずつ投与するとあります。ただ記載が簡単すぎて,硫酸銅として0.5ppmなのか銅イオンとして0.5ppmなのか良く分からないのが残念です。

現在のような硫酸銅単体での治療法は,その後昭和45年(1970年)の観賞魚誌における海水魚飼育者対談で使われているような記載があり,この頃にはマリンアクアリストの間でも使われていたと思われます。

この頃は現在のようにメーカーから銅イオン治療薬(ほとんどがグルコン酸銅)が発売されていたわけではなく,薬局や試薬メーカーを通じて入手した硫酸銅が使用されていたのでしょう。

ただ1980年代までの硫酸銅治療は,銅イオンとして1.0ppm を保つように投与せよ,と書かれていて,魚が死んでしまったり重篤な副作用が出てしまったりする濃い濃度が推奨されていました。

現在では,銅イオンとして0.25ppm(魚に比較的安全なのは0.3ppm程度まで)を維持すれば十分に治療可能なことが分かっていますが,硫酸銅を水道水で溶解して長期間保管したストック溶液を使用した場合は,経験上0.7ppmとなるように添加しても魚にそれ程重篤な副作用はほとんど出ませんでした(無論,治療効果はありました)。

そのため水道水を用いたストック溶液を長期間保管して使用した場合は,1.0ppmを上限に治療してもアクアリストの間で魚が全滅する事はあまり無かったかもしれません(この辺りは「海水魚の病気と対応」の章で詳しく述べました)。

実際,私も飼育を始めた頃は1.0ppmを目安にしていましたが,魚を薬殺という記憶はありませんでした。まあ,その頃は水槽も小さく銅イオンに感受性の高い魚を飼っていなかったということもあるのでしょう。 

ということで,くれぐれも硫酸銅の1000ppmストック溶液を作る際は最低でも精製水を使い,投与直後(5〜10分後)のフリー銅イオン濃度が0.3ppm程度になるように使用してください。


こうして振り返ってみれば,白点病の硫酸銅治療の日本での歴史は50年近くになるのだと分かり,私自身何とも言えない気持ちになりました。医療の世界であれば,50年も使われている薬を使った治療法は完全に確立され,技術的には枯れたものとなっているのが普通です。

しかしなぜか硫酸銅治療に関しては,未だに上手くできずに魚を薬殺してしまう人が出てしまい,避けられる傾向にあるようです。


私自身は硫酸銅治療で魚に重篤な有害事象を出したことがないため,白点病治療の選択する際にハードルが低く,第一選択となっています。

現時点で最も確実な治療法ですので,魚水槽を持つマリンアクアリストが手軽且つ問題なく行えるようになってほしいものです。







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