トップ プロフィール  海水魚今昔  濾過とは 水槽の立上げ  日々の管理  海水魚の病気と対応 雑学


海水魚飼育における雑学



プロテインスキマーの原理


プロテインスキマー(プロスキ)による濾過をプロテインスキミングと呼びます。これは産業用水処理業界では泡沫浮上分離システムと呼ばれているものと同じです。

汚れが取れる理屈ですが,プロスキ内の微少な泡はマイナスの荷電を帯びていると言われています(私は確認できませんが)。これに有機物など浮遊物質(当然最初のイオン結合は,プラス電荷を持つものです)が結合し,その浮遊物がプラスやマイナスの官能基を持っているために,それらがさらなる電気的結合を可能にします。

こうして水中に浮遊している微少な浮遊有機物を,微少な泡と結合させて水中より除去するのが,プロテインスキミングの原理です。

ただし原理からわかるように,水中のプラスに荷電したミネラル(カルシウム,マグネシウムなど)も効率的に除去してしまうため,飼育水のミネラルバランスを崩してしまう可能性があります。海水の場合,添加剤などでそれら失われる成分を補充します。

強制循環システムでもプロスキを使うことがありますが,これはあくまで水中の微細な浮遊性有機物の除去を目的とするものであり,硝化細菌(濾過バクテリア)の負担軽減と透明度の向上を期待してのものです。

プロスキ単体で,白点病などの治療を目的に使用する傾向も過去にはありましたが,表面がマイナス電荷が優位なものは原理上除去され難いことも覚えて置いてください。多くの藻類や菌類は全体としてマイナスに荷電しているので,除去はあまり望めません。白点虫も同様です。

従って,これら有害な微生物を除去するには,プロスキ単体では効果が弱く,オゾナイザーやヨウ素殺菌カプセルなどとの併用が前提になるのです。

実際に,淡水関係でもアオコの除去などに泡沫浮上分離システムは応用されたりしているようです。

もちろんオゾン発生器との併用です。オゾンには脱色・脱臭・殺菌及び粘着性のある気泡を発生させる作用があります。従って,オゾナイザーを併用した方が効率的に浮遊性有機物を除去できます。

しかし,この場合は有機物の酸化も進むので,化学的濾過の作用も出てきます。このため,硝酸塩の発生・蓄積を望まないベルリンシステムでは,プロスキの単独使用となるのです。




オゾン殺菌


オゾンとは

オゾンは3個の酸素原子から構成されています。酸素分子に紫外線や放電等の形でエネルギーを与えると,酸素分子は2個の酸素原子に分裂します。しかし,分裂した酸素原子はすぐに回りの酸素分子と結合してオゾンとなるのです。

オゾンは不安定な物質で,循環水中では数十分で水と酸素に分解されます。また空気中では12時間以上経過すると自然分解により濃度は減じます。


オゾンの作用機序

オゾンは自然分解すると酸素分子と活性酸素になります。水中の場合,さらに周囲の水分子から水素原子を奪ってヒドロキシラジカルの生成も起きます。

ヒドロキシラジカル,オゾン,活性酸素は共に非常に強い酸化力(酸化作用)を持っており,細胞に作用すると膜を破壊したり,細胞の老化を促進したりするのです。

このため,細菌などは細胞壁が破壊・分解されて,細胞内の成分が外部に漏出する溶菌を起し死滅します。

基本的にはメカニズムは塩素の殺菌作用と同様です。ただオゾンの場合,酸化する相手がいなければ水中で自然分解しても,分解物がなお強力な酸化作用を持つため,殺菌作用が持続します。

また,この酸化作用により,上述の殺菌,脱臭,殺虫,漂白,有機物などの酸化分解などが行われます。したがって,飼育水中に有機物が多ければ,オゾンは即座にこれら有機物を酸化分解し活性を失います。この場合は活性酸素やヒドロキシラジカルの生成はオゾンの消費に伴い減少します。

つまり飼育水中に有機物が多いと,オゾンが殺菌にまで手が回らない状況となるのです。なお,オゾンは微量であれば無害ですが,量が多ければ魚などの細胞にも同様の作用機序で有害です。人の労働安全基準は0.1ppmと定められています。




図1:オゾンの作用機序






ヨウ素殺菌


ヨウ素とは

ハロゲン族元素の一つで,単体は金属光沢をもつ暗紫色の結晶です。昇華しやすく,蒸気は紫色で刺激臭があります。

有毒で水に溶けません。天然には海草やちり硝石などに含まれ,哺乳類では甲状腺に含まれてチロキシンを構成し,必須元素の一つとなっています。ヨウ素は殺菌力が強いので,50〜200ppmの塩素と同じ殺菌効果を得るには2.5ppmのヨウ素で十分です。


ヨウ素の作用機序

遊離ヨウ素が殺菌作用を発揮する作用機序に関する仮説は以下の通りです。

1.アミノ酸,ヌクレオチドのN−H結合に作用してN−I誘導体を作り,重要な水素結合を阻害することにより蛋白構造を障害します。

2.アミノ酸のS−H群を酸化して,蛋白合成の重要な要素である2硫化(S−S)結合による架橋を阻害します。

3.アミノ酸のフェノール群に対し,1または2個のヨウ素誘導体を作り,そのオルト位置に結合したヨウ素により,フェノールの−OH基による結合を阻害します。

4.不飽和脂肪酸のC=C結合に作用して,脂質を変性させます。


グラム陽性菌,グラム陰性菌,結核菌,真菌,一部の芽胞に有効ですが,一部の芽胞には無効です。




図2:ヨウ素の作用機序





ヨウ素殺菌筒

現在,ヨウ素殺菌は,浄水器,浄水システム,砂場の殺菌剤,抗菌ペイントなどに応用されています。これらのシステムは,陰イオン交換樹脂に多価のヨウ素分子を結合させた「ヨウ素系殺菌樹脂」を用いています。

ヨウ素系殺菌樹脂は,全体として+(プラス)の電荷を帯びており,樹脂の極性を利用し近くに−(マイナス)の電荷を帯びた物質(細菌・ウイルス・寄生虫・かび等の微生物)を引き寄せたうえで,その物質から電子を奪い,代わりに遊離ヨウ素が放出されます。

具体的には,細菌やタンパク質がイオン交換樹脂に結合すると,イオン交換力でその結合した量に相当する極微量のヨウ素分子(殺菌力・酸化力が強い )が遊離され,遊離したヨウ素の酸化力で微生物を殺滅するのです。

付近に微生物やタンパク質がないとイオン交換力が働かず,ヨウ素は放出されません。




紫外線殺菌


紫外線とは

紫外線(UV)は200〜400nmの波長を持つ電磁波で,物質に光化学反応を誘起する力が強いです。特にDNAは感受性が高い事が知られています。観賞魚で主に使用するのは,253.7nmの殺菌線と呼ばれる波長です。


紫外線の作用機序

最も作用機序がよくわかっている殺菌システムです。

細胞のDNAに紫外線を照射すると,塩基の発色団が260nm付近の光を吸収し光化学変化を受け,同一DNA鎖上の隣り合ったピリミジン残基同士が結合してピリミジン二量体を作ります。

ピリミジン二量体は,DNAの複製・転写の障害となり,紫外線による細胞致死の主な原因となります。

これまで述べてきたオゾンやヨウ素と違って,このように紫外線は細胞のDNAに障害を与えることでその細胞を死滅させるのです。これまでの方式と異なり,有害な副生成物ができないことが利点です。

ただし,水中では2cmぐらいしか到達しないので,なるべくゆっくりとUV管の周りを水が流れなければなりません。また,光なので水が濁っていると,有効範囲が低下するため十分な効果が得られません。





戻る/次へ
inserted by FC2 system