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水槽の立上げ(2)



4.濾過能力を安定させる


バクテリア製剤とスターティングフィッシュを用いた場合,海水魚水槽を稼働させた後はきちんと海水中のアンモニアと亜硝酸濃度をモニターする必要があることは前にも述べました。

アンモニア及び亜硝酸を測定するテスターは複数の観賞魚メーカーから発売されていますが,水質調査用(海水で使用可能な物)の高精度なテスター(ただし高価)を購入して使用しても構いません。

まず,水槽中の海水魚が呼吸や尿によって排出したり,残餌や糞が腐敗したりしてできたアンモニアが蓄積していく事によって,海水中の濃度が上がり始めます。

水量と魚の量(大きさ等)によりますが,例えば濾過バクテリアが殆どいない規格の60cm水槽(水量約50L)に10cm程度のヤッコを入れた場合,1日後には海水中のアンモニア濃度は0.2mg/L(ppm)以上まで増加するでしょう(逆に言えば,120cm水槽で魚を控えめに飼育しているような場合,天災などによる停電でシステムが停止しても半日程度はエアーレーション無しでも生かすことができる)。

つまり濾過バクテリアをきちんと増殖させない限り,いかに大金をかけて飼育システムを構築しても,パッと見で華やかだと感じられる数を入れてしまえば1週間ですら海水魚を生かしておくことは困難なのです。

この厄介極まりないアンモニアは,バクテリア製剤によってもたらされたニトロソモナス属の細菌(亜硝酸バクテリア)によって酸化され亜硝酸になっていくため,亜硝酸バクテリアがある程度の数まで増殖した1〜2週間目をピークにして海水中の濃度は低下し始め,早ければ2週間目,遅くても4週間目にはほぼテスターの検出限界以下の数値に落ち着くはずです。

濾過システムが正常に機能すれば,5日目〜1週間目あたりから亜硝酸の濃度も上がり始めます。亜硝酸はアンモニアが亜硝酸バクテリアによって酸化されてできるため,稼働当初は海水魚に害を与える量は存在していません(水道水中に多少含まれていますので,セロではありません)。

海水中に亜硝酸が蓄積してくると,バクテリア製剤によって導入されたニトロバクター属の細菌(硝酸バクテリア)がようやく増殖を始めます。したがって,海水中の亜硝酸濃度はアンモニアの濃度を後追いするようなパターンで増加していきます。

アンモニアに遅れて早ければ2週間目,遅くとも3〜4週間目に濃度のピークを迎え,その後は減少に転じ早ければ4週間目,遅くとも5〜6週間目には一応検出下限値かそれ以下の濃度になって安定化します。

ここまできて初めて,貴方の立ち上げた水槽に現在飼育している魚達の排泄物をきちんと無毒化(正確には弱毒化)できる濾過バクテリアが繁殖しました。そしてこの事が,新たな海水魚を受け入れるための最低限度の条件となります。



5.魚を追加する


ようやく貴方の水槽は,スターティングフィッシュとして入れた海水魚を問題なく飼育するための濾過バクテリアを必要量確保できたわけですが,先にも述べたようにこの時期の濾過バクテリアは貴方の飼育システムから計算される(完全に立ち上がり安定した状態という前提で)収容能力を賄うには量的に不十分です。

というより,必要最小限の数しかいないと考えてください。

基本的にバクテリアは2分裂で増えますから,例えば安定化して時間が経ち,欲しかった魚をある程度飼育している水槽の濾過槽には100,000の数がいると仮定します(本当は遥かに大量のバクテリアがいるはずですが,わかりやすくするために100,000とします)。

ここに新しい魚を数匹追加して餌となるアンモニアや亜硝酸の量が仮に倍になったとしても,濾過バクテリアは比較的短時間で倍の200,000になります。

この場合,バクテリアは短時間で100,000も増えたことになります。単純に餌が倍になるとすれば,それらを消費するバクテリアも倍になれば収支的には変わらないでしょう。

しかし,ようやく亜硝酸濃度が検出限界以下になった立ち上げ直後の濾過槽では,濾過バクテリアもせいぜい1,000程度しかいないのです(これは餌を産出する魚が少量のスターティングフィッシュしか入っていないため,そこから産生されるアンモニアの量を利用できる濾過バクテリアの数しか増えていないからです)。

そんな所に先の例と同じ数の魚達を追加した場合,一気にアンモニアの量がこれまでの数倍から10倍程に増加しかねません。

濾過バクテリアが最初の例と同じ時間で倍の2,000に増えたとしても,これでは増加したアンモニアや亜硝酸を無毒化するためには数が全然足りない事になります。

このような理由で,ようやく亜硝酸濃度が安全域に低下したからと言って,いきなり大量の魚を追加してはいけないのです。

立ち上げ時期に,目安としていきなりこれまで飼っていた魚の総重量の倍以上の魚を追加することは,再び水質の不安定化を招くという事を理解していただけたと思います。

具体例として,私が震災後停止させていた水槽をリセットして再稼働させた際のデータと,新規に水槽を立ち上げた際のデータを挙げておきます(図1,2)。測定はテトラ社製のキットを使用しました。




図1:60cm水槽立上げ時のアンモニア,亜硝酸濃度の推移

対象は総水量110LのOF形式システム。0日目に海水用バクテリア製剤を規定量投与し,2日目にスターティングフィッシュとして3cm前後のデバスズメ10匹を導入。





図2:90cm水槽立上げ時のアンモニア,亜硝酸濃度の推移

対象は総水量220LのOF形式システム。0日目に海水用バクテリア製剤を規定量投与し,スターティングフィッシュとして11cm前後のスミツキベラ,ブルーヘッドラスを1匹ずつ導入。





60cm×45cm×45cm 水槽はガラス製オーバーフロー(OF)水槽で,サンプと合計すると総水量110L (実際に計測した値)のシステムです。濾過方式は昔ながらの強制循環で,濾過槽は自作(知人に作ってもらった)流動濾過槽(過去にメルリンという製品が販売されていましたが,それに近い形状です)にレインボーライフガード社のBIOLOGICAL MEDIA というおそらく石英製の砂状担体を濾材として入れ,揚水ポンプとしてサンプ内にレイシーのRSD20を設置したシステムから構成されています。

90cm×45cm×45cm 水槽はアクリル製OF水槽で,サンプと合計した総水量は220L。濾過槽と濾材は60cm水槽と同じで,揚水ポンプとしてサンプ内にレイシーのRSD40を設置しています。どちらも稼働当初は殺菌設備は組み込んでいません。

図1を見ていただければわかるように,稼働2日目に3cm 程のデバスズメ10匹を入れてスターティングフィッシュとし,一応アンモニア,亜硝酸共に24日目に検出限界以下となりましたが,26日目に8.5cm のクイーンズランドイエローテールエンゼル1匹と6cm 程のホンソメワケベラを追加したところ,即座にアンモニア,亜硝酸の濃度が上昇しています。

新たに追加した魚達は,スターティングフィッシュであるデバスズメ10匹よりもはるかに濾過に負担をかけたことが理解できると思います。

何も処置をしなければ,新しく入れた魚たちは短期間で調子を崩し死亡へと向かいますし,最初から入れて水質悪化に何とか順応していたデバスズメ達も死亡する可能性が高いでしょう。私はそれを,タイミングを計り立ち上げ途中でのバクテリア製剤の追加投与で対応しましたが,初心者はこのような事はしない方が無難です。

また,32日目,39日目に全水量の1/3強と1/2弱の換水を行っていますが,アンモニア濃度も亜硝酸濃度もそれ程大きくは下がっていないことがわかります。

水槽の立ち上げ時は,大量に換水に行い積極的にアンモニア,亜硝酸の量を減らそうという考えもありますが,このグラフから見てもなかなか難しいことが良くわかると思います。

一方90cm水槽の場合,立上げに予想以上の時間が掛かっています。これはシステムの総水量とスターティングフィッシュのバランスがあまりよくなかったことが原因と考えられます。

このシステムのスターティングフィッシュとして,11cm程のベラ2匹は多かったのかもしれません。しかしその分,一度立上がった後の安定性は同じシステム構成の60cmより良かったと言えます。




さて,ライブロックを用いたナチュラルシステムの水槽を立ち上げる場合も,基本的に水槽内の生物が産出するアンモニアの量と処理能力の関係は同じです。

この場合,濾過槽とあえて呼べる場所は,プロテインスキマーと濾過バクテリアが付着しているライブロックとなります。

プロテインスキマーでアンモニアとなる前の有機物を水槽外に出し,処理しきれなかった有機物や魚の呼吸や尿によって直接海水中に出されたアンモニアは,ライブロックの表層部分に生息する濾過バクテリア(強制循環システムの濾過バクテリアと基本的に同じ)によって硝酸塩にまで分解されますが,内部嫌気性域に生息する別のバクテリアによる反硝化作用によって硝酸塩が窒素等に再度変化させられます(無論,それぞれのバクテリアの量によって,硝酸塩の減少度合いは変わります)。

しかし,先に述べた強制循環濾過方式に比べ,アンモニアの処理能力は格段に落ちます。したがって,新しい魚を追加する方法は同じですが,同じ大きさの水槽でも飼育できる魚の量はかなり少なくなります。




以上のやり方に従ってきちんと水質をモニターし,濾過能力が安定になれば立ち上げ完了です。

新しい魚を一気且つ大量に増やさない限り,きちんとそれぞれのシステムに対応した,理屈に合うメンテナンス(換水,濾過槽・濾材の掃除,減少する微量成分の補充等)を定期的に行っていれば,水質面で何の問題も無く海水魚飼育を楽しむことができます。

もうお分かりでしょうが,立ち上げさえ無事にできれば,海水魚飼育の第一段階はクリアーしたと考えてよいでしょう。





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