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海水魚の病気と対応(3)


単生類によるもの


ハダムシ症

注意する人は少ないかも知れませんが実際には非常にポピュラーであり,購入してくる魚や採集してきた魚には必ず寄生していると考えた方がよいでしょう。1995年ごろに海水魚雑誌で報告がありましたが,養殖の世界では昔から知られていました。

ただし定期的な淡水浴を行う等,トリートメントをきちんと行うショップから買った場合は,ほとんど寄生していないこともあります。

〈症状〉

生時の虫体は透明であるため,少数が体表に寄生している場合はまず気が付きません。しかし本虫が多数寄生すると,何となく体表が部分的に曇ったように見えるようになります。特に顕著なのは眼で,レンズの部分が白濁したように見えます。

本虫は良く発達した後吸盤で魚の体表に強く吸着するため,魚は強い刺激を感ずるらしく硬いものに体を繰り返し擦りつけるようなります。そのために皮膚はびらんし,その傷口はビブリオ菌をはじめとする細菌の二次感染を起こす原因ともなります。

ただし,特に症状が起きていない魚を淡水浴した場合でも,多数の本虫が魚体から遊離することも多多あるので,比較的寄生例は多いのではないかと考えられます。なお,症状が進行すると眼が脱落する場合もあるので注意しましょう。

魚の眼(レンズ)が曇っており,類似の症状を示す白点病やウーディニウム病等の疾患とも思えないにもかかわらず,餌を食べずに何となく落ち着きがなかったり,上記のような挙動を示すときには疑ってみると良いでしょう。


〈原因〉

単生類のベネデニア属(Benedenia属)またはネオベネデニア属(Neobenedenia属)等の体表寄生によります。

本属の吸虫は養殖においてハマチやイシダイ等でよく見られますが,ハマチとイシダイでは寄生する種が異なっており,観賞魚で見られるものが単一種であるかどうかは不明です。むしろ複数の種が関与していると考える方が正しいかもしれません。

ブリ類に寄生するベネデニア・セリオレ(Benedenia seriolae)に関して述べれば,体は楕円形で扁平,体前部に2個の吸盤,体後端に卵形の大きな円盤(後固着器)があります。この後固着器の中央には3対の大鉤を持ちます。

大きさは成長段階によって様々でありますが,大きいもので体長8mm程度です。雌雄同体で幼虫のうちに交尾します。

成熟まで24℃で14日ほど。体長6mmになると成熟して1回に50個ぐらいの,大きさ0.13mm前後の三角形の卵を産みます。卵は水温20〜22℃で6〜7日で孵化し,幼虫となって水中を遊泳,魚体に寄生します。

なお,淡水浴によって死亡した虫体は白化し,肉眼でよく観察できます。

養殖業では輸入カンパチやヒラメ,ウスバハギなどからネオベネデニア属(高温性と言われる)の寄生も報告があります。形態や症状はベネデニアとほとんど同じです。


〈治療法〉

淡水浴が非常に効果的で,魚体に寄生した本虫は筆者の経験上3〜5分の淡水浴で,浸透圧の関係で直ちに活力を失い,脱落,死亡します。

ただし,同様の症状でも10分以上の淡水浴でないと効果がなかった例もあり,一概に時間を決めることはできないようです。

また,淡水浴時には細菌による二次感染の予防のため抗菌剤による薬浴を同時に行った方が望ましいでしょう。淡水浴の方法はトリコディナ症と同様に行えばよいのですが,体表の粘膜を除去する必要はありません。


実際の淡水浴の方法へ


1回では完治しない事もありますので,その場合は時間延長よりも回数を多くする(1日2回とか1日1回で2,3日行う等)方が魚に対する負担が少ないでしょう。

さらに完全な淡水ではなく,低塩分水浴による治療法も示唆されています。マハタに寄生したB. epinepheli は,水温12〜23℃で塩分5‰の低塩分水に3分間浸漬することで駆虫可能であり,マハタに寄生したN. girellae は,水温23℃で塩分5‰の低塩分水に3分間浸漬することで駆虫可能と考えられるとの報告がされています。

また養魚業界においては市販されている駆虫剤(過酸化水素製剤のマリンサワーSP30,経口用でイソキノリン-ピラジン誘導体プラジクアンテルを有効成分とするハダクリーン等)を使用しますが,入手方法や観賞用海水魚に対する適正量(特にハダクリーンは経口用のため,餌に混ぜて魚体重1kgあたり150mgにする必要がある)に問題があり,ホビイストの使用は難しいでしょう。


〈予防法〉

どの病気でもそうですが,一度水槽内に侵入を許すと根絶は難しいので,なるべく持ち込まないようにするしかありません。

本症の場合,寄生虫が淡水浴に弱いことがわかっていますので,新規購入魚はトリートメントタンクで餌付けし,十分に慣れた後,淡水浴を施して本水槽に入れてやれば持ち込む確率はかなり低くなります。

また,平時よりバランスのよい給餌を心がけて体力をつけ,ストレスをなるべく与えないように飼育すれば,淡水浴を行う場合も有利(魚が参ってしまわない)です。

なお,本虫の幼虫や卵に対して殺菌灯やオゾナイザーが効果あるかどうかは不明です。



エラムシ症

単生類の身体は扁平で細長く,体長も1mm以下から20mmを越えるものまで様々であり全ての種が寄生生活を送ります。体後端に固着器官があり,この形態から単後吸盤類と多後吸盤類に分けられます。

これら単生類は海水魚養殖で鰓やその周辺に寄生して大きな被害を与える事が知られています。種類は不明ですが,これら単生類が鰓に寄生して起きたと思われる症状を若干ではあるが聞き及んでおり,これらを便宜上エラムシ症とここでは述べます。

〈症状〉

昔の海水魚雑誌に「チョウチョウウオの独特の鰓病」として,「突然鰓蓋の動きが速くなり,バッタリと餌を食べなくなったり,背鰭や腹鰭の棘条を立てるようにして,吻を時々伸ばしたりする仕草を見せ,眼球も通常より興奮気味に見え,とにかく落ち着きが無くなる。急速には死亡しないが自然回復もしない。餌を受け付けずに衰弱死するか,呼吸困難によるショック死を起こす」という症状が紹介されており,これが該当すると考えています。

またチョウチョウウオの中でも,ユウゼンは単生類(種類は不明)によるエラムシ症に罹ることが多いようです。

よく似た症状として養殖ブリの例を述べると,多数寄生すると鰓には多量の粘液が分泌され,さらに吸血されて鰓は褪色し,鰓弁の崩壊が見られたりもして,貧血状態となります。

外見的な症状としては摂餌量が減り,体色が黒変する場合が多いようでし。さらにひどくなるとやせて斃死します。

上記のチョウチョウウオの記載やチョウチョウウオに詳しい飼育者からの話を聞く限り,鰓弁で見つけられた寄生虫の形態や治療法から,養殖魚関係で言われていた「エラムシ症」にかなり近い疾患と思われます。

私自身は,エラムシ症と思われる症状を経験した事はほとんどありませんが,ヤッコなどにも寄生するらしいです。


〈原因〉

チョウチョウウオやヤッコに寄生する単生類の種が同定されたという話は聞きませんが,かなり宿主特異性が高いようですので別々の種である可能性もあります。ここでは類似の症状の原因となる何種かを記載します。

ブリの場合,多後吸盤類のヘテラキシネ・ヘテロセルカ(Heteraxine heterocerca)の鰓弁寄生によるものです。

成虫は左右不相称で三角形に近い形をしていて,体長は5〜17mm。後端には鰓弁をつかむための大小2列の把握器があります。鰓から血液を吸って栄養とします。5mmになると成熟して産卵します。卵は水温20℃で4日前後で孵化して魚体に寄生し,15〜20日で親虫になって産卵すというライフサイクルを持っています。

トラフグの場合,ヘテロボツリウム・オカモトイ(Heterobothrium okamotoii)の鰓への大量寄生によって重篤な貧血症を起こし,また成虫の寄生部位から海水が浸入することで細胞の壊死を起こし腐敗菌が繁殖し死に至ります。

虫体は細長く,成虫の体長は最大20mmに達します。まず未成熟虫は鰓弁上に寄生した後,鰓腔壁に移動して成虫になります。

成虫は虫体の後端部に左右4対の把握器を持ち,この把握器によって鰓腔壁に吸着します。成虫は前後が付属糸で結ばれた数珠つながりの虫卵を産みます。



〈治療法〉

淡水浴は効果がありません。また,硫酸銅も効果がありません。

ブリ養殖では9%前後の濃塩水(普通の海水は塩分(塩化ナトリウムではない)濃度3.5%程度)に3〜5分間つける方法が有効であるとの報告があります。

またヒラメのネオヘテロボツリウム症において,8%食塩添加海水浴(17℃と20℃で5分間)による治療が有効であったとの報告があるため,鰓に寄生しエラムシ症を引き起こす単生類には濃塩水浴が効果的である可能性が高いです。

養魚用の魚病薬で,過酸化水素を主成分とする薬剤が未成熟虫に対しての適用を持っていますので,過酸化水素も効果が期待できます。

しかし私自身はこの症状を経験していないので,これ以上の詳しい治療法を述べることができません。先に述べた濃塩水浴の濃度(9%)ではチョウチョウウオには強すぎるとの記載が前述の雑誌にあった(6%位の濃塩水で治療していた)ので,各自が検討しながら行うしかないでしょう。

なお,濃塩水浴は鰓に炎症を生じさせますので,治療に当たってはエルバージュ等の薬品を飼育槽に投与した方がいいでしょう。

養殖においては,薬浴用の過酸化水素製剤のマリンサワーSP30(ただし25℃以上の水温では使用が難しい上に,成虫には効果がない)や経口用のベンゾイミダゾール化合物を有効成分としたマリンバンテル等が治療に使われていますが,入手方法や観賞用海水魚に対する適正量(特にマリンバンテルは経口用のため,餌に混ぜて魚体重1kgあたり50〜100mgにする必要がある)に問題があり,ホビイストの使用は難しいでしょう。


〈予防法〉

殺菌灯やオゾナイザーは効果があるかどうか不明です。本症の予防法は今のところないようですので,新しく入手した魚は一定期間トリートメントタンクで検疫し,水槽内に持ち込まないようにするしかありません。





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