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海水魚の病気と対応(2)


繊毛虫症


トリコディナ症

ヤッコの仲間やクマノミ(カクレクマノミに多い)で時折見られる繊毛虫症。進行が非常に速い場合が多いのですが,適切且つ早期に治療を行えば怖い病気ではありません。

ただ,最近の報告ではクマノミによく見られる症状は,トリコディナ症ではなく別の繊毛虫による疾患である可能性が示されています。

〈症状〉

外観的には粘膜の過剰分泌に伴う体表の白濁(薄く膜が張ったように見える)が観察されます。また,時には鰭にスレの症状や体表に軽度の出血が見られることもあります。

体表寄生の場合は,頭部や前背部に寄生することが比較的多いのですが,鰭,特にその基部付近に群がることもあります。気が付いた当初はほんの一部分に過ぎず,身体を飾りサンゴなどに擦りつける事による粘膜の剥離と区別が付きにくいのですが,この場合時間経過と共に目立たなくなるのに対し,本症の場合は白濁部分が急速に広がっていく傾向にあります。

鰓寄生の場合には,粘液が過剰に分泌され,また鰓薄板の上皮増生が起こって呼吸障害を伴いますが,肉眼的にはほとんど異常は認められません。

なお,養殖魚に関して,それほど重大な被害(急激な死亡)の報告は少ないようですが,観賞魚(特にヤッコやクマノミの仲間に多い)の場合は進行が非常に速く(場合によっては1日で全身に膜が張ったようになり死亡する),斃死率が高い(手遅れになると100%)ことが多いようです。


〈原因〉

原生動物,繊毛虫類のトリコディナ属(Trichodina属)の体表や鰭,鰓への寄生によって起こります。Trichodina属の主たる食物は増生し,種々な段階で崩壊過程の上皮細胞,さらにそれを利用して増殖する細菌であると考えられています。

白点病のように寄生体が単一種ではなく多数の種類が知られていますが,その同定はほとんど不可能です。

本症の害作用は主として寄生した虫体による吸着と匍匐(ほふく)による刺激にあると考えられています。刺激の強さは寄生体の種類によって違うでしょうし,宿主の刺激に対する感受性は魚種や年齢によっても異なるでしょう。その組み合わせによって当然症状に差が生じると考えられます。

観賞魚の場合,強度の炎症が起きたり,増生した上皮の表層が崩壊したりするのしょう。

形態は複雑であり,上面観は円形,側面観は盃型,ベル型など変化に富みます。体の下部周辺には長い繊毛が放射状に密生する繊毛帯があり,この繊毛の動きによって鰓や皮膚の表面を匍いまわり,また水中を遊泳します。繁殖は横2分裂です。


〈治療法〉

上記のような症状を認めたら,即淡水浴を実施します。重症となってからでは魚が弱っていることもあり治すことは困難ですが,初期であれば非常に効果的で,淡水浴によって容易に完治します。

まず1〜2分間淡水浴し,それから魚を手で持ち,淡水中で粘膜の過剰分泌に伴う体表の白濁を指などで取り去ってやり,その後さらに2〜3分間淡水浴を続けます。1回で治りきらない場合は,時間延長よりも時間を置いて再度実施する(1日2回とか1日1回で2,3日行う等,症状に合わせて実施する)ことを奨めます。

なお,現在水産用として使用可能な薬品や化学物質で本虫に有効なものは,ほとんどないようです。


実際の淡水浴の方法へ

〈予防法〉

クマノミの仲間やアメリカ産のヤッコ,新着の魚で発症することが多いのですが,長期間飼育した魚に発症することもあります。

白点虫などと同様,魚も通常状態でこれらの寄生虫を少量は持っていると思われ,おそらく何らかの原因で魚の恒常性が損なわれ,寄生虫の活性化や増殖を許してしまうのでしょう。

従って環境変化やストレスをなるべく与えないように飼育し,適度な水換えや掃除を行い虫溜まりを作らないことが最大の予防となります。

また,新しく購入した魚はよく観察し,本症と認められたら即座に治療を行うことで他の魚への拡大を防げるでしょう。



ブルックリネラ病

タツノオトシゴやクマノミで発生しやすいと言われますが,熱帯性を含む海水魚全般で起きる可能性がある繊毛虫症。症状が現れてからの進行が非常に速く,致死率も高いとされています。

私自身は、カクレクマノミを含めクマノミの仲間で発生した経験はないのですが,かなり以前(20年以上前)にヤッコの仲間で同様の症状が出たことがあります。ただし,この当時はブルックリネラ病だとは判断できず,ちょっと症状が妙なトリコディナ症だと考えていました。

〈症状〉

外観的には粘膜の過剰分泌に伴う体表や眼球の白濁(薄く膜が張ったように見える)が観察されます。トリコディナ症も似た症状が現れますが、トリコディナ症と区別するには患部の体表粘膜を採取し,顕微鏡による病原生物の確認をすることが一番確実と思われます(形状はトリコディナ属の繊毛虫よりむしろ、白点虫であるクリプトカリオン・イリタンスに一見似ています。ただし、普通の人では染色しないと白点虫との識別は難しいでしょう)。

体表寄生の場合,体の一部又は複数個所が粘膜増生によって白い雲のようなもので覆われますが,他に白い粒状のものが現れる場合もあるようです。重篤になった場合、表皮に炎症やびらんが生じることもあります。またトリコディナ症と同じように,鰓寄生の場合には粘液が過剰に分泌され,また鰓薄板の上皮増生が起こって呼吸障害を伴いますが,肉眼的には多少鰓が膨らんでいる程度で、外観上ほとんど異常は認められません。

観賞魚の場合は進行が非常に速く斃死率が高い(場合によっては数時間で死亡する)ことが多いようです。なお,養殖魚に関して国内では,マダイやフグで被害が報告されています。


〈原因〉

原生動物,繊毛虫類のブルックリネラ属(Brooklynella属)の体表や鰭,鰓への寄生によって起こります。Brooklynella属の主たる食物は,宿主の皮膚組織と考えられます。

今のところ,Brooklynella hostilisBrooklynella sinensis の2種が知られていますが,治療の場合はトリコディナ症と同じ区別する必要は無いようです。

本症の害作用は主として寄生した虫体による吸着と匍匐(ほふく)による刺激にあると考えられています。またブルックリネラは白点虫とは異なり,環境条件が整えば宿主の体表上でも分裂・増殖します。そのため、トリコディナ症と同様に急速に症状が進行するのです。また環境条件が整わなければ、宿主より離れシストを作ると言われています。


〈治療法〉

私の場合,過去に起きた際には2〜3分間の淡水浴を1日に2回実施したことで症状は治まりました。ただし,非常に初期の状態で1回目を行ったことが良かったように思われます。症状が進行してからの場合,表皮の損傷から魚が淡水浴に耐えられない可能性は十分に考えられます。ブルックリネラ病の治療法は1〜5分間の淡水浴の他に,過酸化水素浴やホルマリン浴,マラカイトグリーン浴,メチレンブルー浴等が挙げられますが,私自身は試したことが無いので効果はわかりません。ブルックリネラ病の治療法に関しては,(株)エムピージェー刊のマリンアクアリストのNo.66,72,91で西川洋史博士が詳しい症例報告を書かれているので,そちらを参照してください、

淡水浴の方法に関しては、トリコディナ症の場合と同様です。


〈予防法〉

ブルックリネラは世界中の海域,特に温帯域に分布しており,魚も通常状態でこれらの寄生虫を少量は持っていると思われ,おそらく様々なストレスが原因で魚の恒常性が損なわれ,魚の皮膚によるバリアー機能が低下することで,寄生虫の活性化や増殖を許してしまうのでしょう。

従って環境変化やストレスをなるべく与えないように飼育し,適度な水換えや掃除を行い虫溜まりを作らないことが最大の予防となります。また,新しく購入した魚はよく観察し,本症と認められたら即座に治療を行うことで他の魚への拡大を防げるでしょう。

紫外線殺菌灯やオゾナイザー,プロテインスキマーは,飼育水中のブルックリネラを減少させる効果が期待できます。私自身,殺菌灯設置してからはトリコディナ症もブルックリネラ病も発症したことがありません。



鞭毛虫症


ウーディニウム病

白点病と並んでポピュラーな病気,と様々な飼育書に書かれていますが,その割に私は28年間海水魚飼育を続けていて2〜3度程しか確認したことのない病気です。

個人的な考えでは,トリコディナ症の方が多いように思います。

〈症状〉

基本的には白点病とほとんど同じ症状で,呼吸が速くなり,頭部,く幹,鰭,鰓などの表面に黄白色の小麦粉を薄く振りかけたような多くの微少な虫体(これも白点虫と同様,魚が防御機構として粘液を過剰分泌させて虫体を覆うために肉眼で見える)を認めることができます。

ただし白点病と異なり虫体が小さいため,様々な角度から魚を見ないと確認し難く,主たる寄生部位は鰓であることが発見を遅らせる原因となります。

呼吸が速く,水槽の隅や出水口近くで弱っているようにおとなしくしていたり,白点病のように振る舞うがなかなか白点を確認できなかったりした時にまず疑ってみる疾患です。

白点病と同様,鰓寄生による粘液の過剰分泌,上皮の増生と癒着,崩壊による呼吸障害が起きますが,白点病よりも鰓に与える障害は大きく,斃死する確率も高いように思えます。水温が高めで,比較的水換えをしない水槽に発生することが多いと言われています。


〈原因〉

原生動物,鞭毛虫類のウーディニウム・オケラタム(Oodinium ocellatum)の表皮下および鰓寄生によります。

本虫は害度の強い寄生体として知られていますが,Oodiniumが大発生をして被害が生ずるのは水族館や小型の循環式水槽などで飼われた魚に限られており,野生魚や養殖場の魚が被害を受けたという報告はないとのことで,養殖関係の資料を見ても本症は載っていません。

Oodiniumは魚に寄生しているときには球形ないしは卵形で,体の一端に仮根状の突起は持つが鞭毛は持たず,鞭毛虫には見えません。しかし魚体を離れるといったんシストとなり,その内部で分裂が起こって双鞭毛を持った遊走子が多数(数百個)形成され,鞭毛虫であることがわかります。遊走子は水中を遊泳し,魚に到達すると鞭毛を失い寄生期に入ります。

大きさは諸説ありますが,大体10〜100μm(注:1μmは1/1000mm)の範囲と考えられ,繁殖は25℃付近で盛んですが,ライフサイクルは白点虫より2〜3日長いようです。20℃以下では緩慢となります。


〈治療法〉

白点病と同じく,硫酸銅による治療法が効果的です。硫酸銅の濃度や投与間隔,投与方法,注意点に関しても全く同様でよいでしょう。早期に治療を行えば怖い病気ではありません。

白点病の章でも述べたように,銅イオンは魚体に寄生しているOodiniumには効果がないため,発見や治療が遅れると魚にはかなりの負担となるため注意が必要です。



実際の銅イオン治療プログラムへ

〈予防法〉

これも白点病と同様ですが,どちらかというと古い飼育水で高い水温の水槽に発生する確率が高いようなので,定期的な水換えや濾過槽掃除を行うことも予防となるでしょう。





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