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海水魚の病気と対応(1)


繊毛虫症


白点病

非常にポピュラーな病気。というより,飼育している方が飼っている魚に病気が出たと言った場合,殆どがこれです。海水魚を飼育する者ならば一度は経験した事のある病気と言えるでしょう。ただし,魚水槽で飼育していれば治療法が確立しているので怖い病気ではありません。

〈症状〉

一般的には,感染初期は呼吸が速くなり,頻繁に体を硬いものにこすりつける動作を見せたり,透明な鰭が白っぽく曇って見えたりします。白点虫が成長するに従いさらに呼吸が速くなり,身体の各部の表面に複数の小白点が見られ,眼の角膜に寄生した場合,眼が白濁することもあります。

また,多数が寄生した場合は,遊泳が不活発になり水底で動かなくなります。そして体表の粘膜分泌が増え,表皮はびらん(注:皮膚や粘膜を含めて上皮が欠損した状態。わかりやすく言うと赤くただれたような状態。),出血,剥離する場合があり,これは末期的な症状と言えます。

こうなってしまうと呼吸困難で死亡するか,摂餌をやめ衰弱して斃死(へいし)するかのどちらかの道を辿る事になるでしょう。このうち呼吸困難は鰓寄生による粘液の過剰分泌,上皮の増生と癒着,崩壊による呼吸障害であると思われます。

私の水槽では,白点病が発病しそうになると魚が寄ってきて身体を見せるので,かなり早期発見が可能となっています。


〈原因〉

原生動物,繊毛虫類のクリプトカリオン・イリタンス(Cryptocaryon irritans)の表皮下寄生によるものです。本虫は大きくても0.5mm程度の楕円形をしており,広温性で数珠状に連なった4個の核を有します。最近の研究では,遺伝子や発育速度等の生物学的な違いがみられる複数株の存在が示唆されています。

なお,白点虫の体色は白色ではありません。顕微鏡下の透過光観察では暗色不透明に見え,魚体を離れた白点虫はまず肉眼で確認することは出来ない(白い点が泳いだり漂ったりはしない)でしょう。

白点虫が白く見える理由は,魚が防御機構として粘液を過剰分泌させて白点虫を覆い,白点虫の侵入を防ごうとするためであり,あれは粘膜の色なのです。


〈白点虫のライフサイクル〉

子虫(セロント:theront)は水中を漂い,宿主である魚に寄生します。寄生したセロントは主として上皮細胞とその崩壊物,さらに浸潤細胞,血球などを食物としています。しかしその害作用は食害よりむしろ寄生部位で絶えず繊毛による回転運動をし,また,移動することによる強い刺激にあると考えられています。その刺激によって上皮組織には炎症,浸潤,増生,さらには退行性変化が現れるのです。

約1日経つと寄生したセロントは成長し,我々にも肉眼で確認できるお馴染みの白点に見えてきます。トロフォント(trophont)と呼ばれる成虫は2〜4日程で成熟して自ら魚体を離れ,数時間は運動性を持つプロトモントと呼ばれる状態になり水底へ向かいます。

水底に到達したトモント(tomont)は水底を動き回った後,6〜12時間以内に水底に固着してシスト(cyst:増殖のための形態であり,外部環境に強い抵抗性を持ち内部に蔵卵する)と呼ばれる被嚢体を形成し,シスト内部で急速に分裂を開始してトマイト(tomite)と呼ばれる子虫を産出するのです。

約20時間で分裂を終え,その間に500〜1000個のトマイトができます。トマイトはシストの中で成長し,セロントがシスト壁を破り水中へ放出されます(水温25℃では宿主離脱4 日〜 2 週間後)。

このライフサイクルは水温によって変化し,26〜27℃の飼育水では4,5日でしょう。水温が低ければこの期間は長くなり,高ければ短くなります。しかし,常に一定というわけではないので,対処に当たっては飼育者がよく観察の上,治療に当たらなければなりません。

シストは外部環境に対する耐久性が高く,このままの状態で何日もトマイトを保存しておくことができます。周囲が放出に適当な環境であれば,シストが破れてトマイトは水中に放出される仕組みです。セロントとなった子虫は体表に繊毛を持ち,水中を泳いで宿主に寄生するのです。

しかし,セロントの寿命は放出後24時間程度と短く,感染力も放出後6時間以降は急激に低下すると言われています。

以上のパターンを繰り返すわけですが,各々の白点虫のライフサイクルは同調していないため,本症が発症した水槽内にはこれら各段階の白点虫が存在することとなるのです。


〈治療法〉

現在白点病の治療方法には幾通りかの方法がありますが,ここでは代表的なものを挙げるに留めます。なお,低塩分(低比重)による防除効果に関しては報告がありますが,株間によって塩分耐性が大きく異なるため,一概に有効とは言えません。


1.銅イオンによる治療

家庭用水槽における治療法としては,硫酸銅が最も古くから使用されてきました。これは銅イオンが白点虫に対して駆除効果があることが,水族館等での研究で明らかになったからです。

銅イオンには殺菌作用があることが知られており農薬などに応用されていますが,その作用には銅イオンを触媒として水中の酸素分子から産生される過酸化水素やその最終産物であるヒドロキシルラジカルが関与していると考えられています。

銅イオンによる白点虫のセロント駆除の作用機序も,未だ解明されてはいませんがこれらの酸素系酸化物質が重要な役割を果たしていると考えられています。

経験上底砂を敷かない水槽であれば(濾過用のサンゴ砂等ではないパウダー状の物),白点虫(セロント)を駆除には銅イオンが水中に0.25ppm(銅イオン濃度であって硫酸銅濃度でないことに注意!)存在すれば充分であり,それ以上の濃度に維持する必要はありません。

しかし精密なテスターが無い限り0.25ppmの維持は困難ですから,実際には0.20ppm以上0.30ppm以下に銅イオン濃度を維持するように治療を行います。

具体的には,12時間間隔で飼育総水量に対し0.20〜0.30ppmとなるように硫酸銅溶液(ストック溶液として銅イオン濃度1,000ppmの溶液が適当)を添加することになります。


実際の銅イオン治療プログラムへ


2.グリーンFゴールド顆粒投与による治療

グリーンFゴールド顆粒は,日本動物薬品鰍ェ販売している魚病治療薬です。有効成分は,合成抗菌剤であるニトロフラゾンとスルファメラジンナトリウムであり,効能は細菌感染症(皮膚炎・尾ぐされ症状等)の治療となっています。

なお,同じ会社からグリーンFを冠している動物用治療薬が複数販売されていますが,それぞれ有効成分や効能が異なるので注意が必要です。海水魚の治療に用いるのは,「グリーンFゴールド顆粒」です。

本製品の白点虫に対する作用機序は不明ですが,実際に海水魚の白点病治療に使用して効果があるとの報告がされており,治療に使用している人も多いようです。しかし,あくまで発売元が指定している効能ではないものを期待しているため,その成果がいかなるものになったとしても使用者が責任を負うべきものであると言えます。

硫酸銅五水和物に比べ,普通のショップで入手可能であるため利便性は良いです。使用方法は,本製品に書かれている規定投与量の半量(非常に魚への吸収性が高いため,規定量では海水魚に対して多すぎる)を飼育水槽または隔離水槽に投与します。

薬効の継続期間は3日程ですので,3日毎に水槽に投与を行います。通常は10日以内で完治しますので,完治後に活性炭等で黄色化した海水から色を抜き,その後半量以上の換水を行います。

グリーンFゴールド顆粒を使用する場合でも,投与量を算出するためには自分の飼育システムの総水量を把握しておくことが重要となります。海水魚を飼育するのであれば,是非自分の飼育システムの総水量を一度確認することを勧めます。

なお,本製品が白点虫のライフサイクルにおいて,どの部分に作用しているのかはわかっていませんが,シストへの効果は無いと思われます。

〈副作用〉

本製品の有効成分は合成抗菌剤であるため,長期間の使用は濾過バクテリアに悪影響を及ぼす可能性が高いです(実際に濾過に影響が出たとの話もある)。

また,本製品を使用した長期間薬浴でリンフォシスチス症が出やすくなる,との例もあり,ダラダラした使用は控えるべきです。

本製品の有効成分に対するUV殺菌灯やオゾナイザーの影響は不明ですが,多少は分解されると考えた方が良いかもしれません。3日で薬効が無くなることが分かっていますので,治療期間中はこれらの装置を切っておいた方が良いでしょう。



3.バケツ隔離による治療

この方法は非常に単純な考え方に基づいており,物理的に白点虫を除去してしまおうというコンセプトで行われます。

白点虫のライフサイクルを理解すれば自ずと出てくる発想であり,エアーレーション及び保温を行ったバケツに病魚を隔離して,一定期間ごとに換水を行い,魚体を離れた白点虫(トモントやシスト)を物理的に除去するのです。

こうしていけば,魚体に寄生した白点虫はいつか全て離れるわけですから,薬物を使うことなく白点病を治療できるのです。

最大のメリットは薬物による副作用の心配が一切無い点ですが、水質変化を最小限に抑えるために大きなバケツや水槽で海水を作り,そこから隔離用のバケツに海水を汲む等の配慮はあった方が良いでしょう。

〈実際のやり方〉

用意するものはバケツ2個以上とエアーポンプ,新規に作った海水。白点病に罹患した魚を,10〜12時間はエアーレーションのみで泳がせておける水量を入れたバケツに収容します。この際、温度コントロールが可能な室内に置けば,狭いバケツ内にサーモスタットのセンサーやヒーターを設置する必要がなくなります。

普通は10〜12時間毎に換水を行いますが,この時にバケツ自体も取り替えます。つまり,新しい海水を入れた2個目のバケツに魚を移すのです。

白点虫のシストの付着力は思いの外強く,バケツを流水で洗ったぐらいでは完全に落ちない事が水産試験場で行った実験報告からわかっています。最低でも,スポンジなどでこそぎ落とさないと残存するシストが残るのです。

したがって隔離に使うバケツは複数用意し、次々と魚を移していく方が理論的なのです。こうして使用したバケツをスポンジなどでよく洗い(洗剤は使わない事!),再度使用すれば完璧です。

〈注意点〉

この方法は濾過装置のないバケツにエアーレーションのみで魚を入れておくため,魚に対して致命的な水質悪化が起きない間隔で換水を行う必要があります。

治療対象となる魚の大きさによって必要となる水量も変わるので,各自がそのあたりを見極めた上で治療を行わなければなりません。

魚を購入する時,懇意にしているショップに海外から輸入される際の魚の大きさと水量に関して,情報を収集しておくと役にたつでしょう。

またマダイやイシダイを用いた研究で,宿主からのプロトモントの離脱およびセロントの宿主への感染は,ともに夜間(深夜)から明け方にかけて多いことが判明しているので,この情報も加味して水替えのサイクルを検討してもよいかもしれません(換水は午前中に行う事が効率的である)。

もう一点,この方法は1.や2.の方法と異なり,元々魚が泳いでいた飼育水槽の白点虫を積極的に駆除するものではありません。飼育水槽中で病魚を移す前に魚体を離れたプロトモントがいれば,水槽内のどこかでシストとなっています。

もし飼育水槽内に他にも魚が泳いでいれば,シストから放出されたセロントが残った魚達に寄生する,または既に寄生している可能性は十分あります。

飼育水槽内がこのような状態であれば,バケツに隔離して完治した元病魚を飼育水槽に戻すと再度寄生される可能性が高いです。しかしセロントはシストからの放出後24時間以内に宿主に到達できないと死んでしまうと言われています。だから白点病を確認したら病魚だけではなく,その水槽で飼っている魚全てをバケツに隔離しておけば飼育水槽内の白点虫も自然に駆除できることになります。



〈予防法〉

白点病の最大の予防法は,飼育に際して水質,飼育温度を含む環境を一定に保つことです。一度水槽内に白点虫の侵入を許すと,シストの形で潜伏していると思った方がよいでしょう。白点虫を水槽内から根絶することは非常に困難だと考えています。

おそらく水質の悪化や水温の変化(小刻みな)によって魚の恒常性が損なわれ人間で言う風邪をひいた時,またはストレスが蓄積した時のように免疫機能が低下して,白点虫の活性化や感染,増殖を許してしまうと考えています。水槽は設置場所によっては人が考える以上に気温が低くなったり高くなったりすることがあり,自分の水槽の水温変化をよく観察することが重要でしょう。

従って私は濾過能力をなるべく大きく取り,サーモスタットやヒーターを推奨容量より1ランク上のものにしたり,系統を複数にしたりするなどして水質,水温を一定にすることに最も力を入れています。またストレスも同様に魚の免疫力を低下させるので,魚の組み合わせや飼育環境を考え,極力魚にストレスを与えないように注意する必要があります。

もう一点,先に述べたようにシストが潜伏している可能性を考えると,底砂や濾材などを激しく舞わせるような行為は慎むべきでしょう。

殺菌灯は発病してしまえば治療効果はあまり無いのですが,経験的に予防という点からは効果があると考えています。設置以前に比べ他に変更した部分がないにもかかわらず,白点病の発症率が低下した経験を持っているからですが,海水魚を長く飼っている他の人に聞いても同様の感想を述べられているので,確かに効果はあると言っていいのではないでしょうか。他にオゾナイザーも同様の効果を持つと思います。








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