トップ プロフィール  海水魚今昔  濾過とは 水槽の立上げ  日々の管理  海水魚の病気と対応 雑学


濾過とは




海水魚飼育における濾過とは何か



海水魚飼育における濾過とは,単に水槽中のゴミを除去するものではありません。濾過の最も重要な役割は,残餌の腐敗や飼育している魚が輩出した窒素老廃物(海水魚の場合は大部分がアンモニアの形で排泄される)の無害化(弱毒化)です。

水槽中の海水は大抵,中性から弱アルカリ性のpHですので,淡水のようにアンモニアが毒性の低いアンモニウムイオンに変化し難いのです。下の図のように,このアンモニアを濾過細菌の力を借りて亜硝酸,硝酸塩へと弱毒化していくことが海水魚に必須の濾過なのです。


図.水槽内の窒素老廃物の変化


1.アンモニア

海水中のアンモニアは非解離型のアンモニアと,解離したアンモニウムイオンとして存在しており,両者の間には解離平衡が成り立っています。この状態は,pHと水温によって変化し,これらの上昇によってアンモニアの割合が増加します。

アンモニアには粘膜刺激性(腐食性)や神経毒性があります。神経毒性に関して言えば,アンモニアは脂溶性が高いため脳に運ばれるのです。血中のアンモニア濃度が高くなると,脳などではその処理を行うためにエネルギー産生に必須な物質(α-ケトグルタル酸)を消費するため,エネルギー産生が低下し修復不可能な脳神経障害や細胞死が起こります。水中のアンモニア濃度は,長期間0.25mg/L 以上の場合アンモニア中毒を引き起こし,水中生物は徐々に弱って死亡します。1.5mg/L 以上では確実に水中生物は短期間に死亡することになります。

ただし立ち上げ途中のスターティングフィッシュや,貴方の水槽で長く飼われた魚であれば,徐々にアンモニア濃度が上がっていった場合,ある程度適応して0.8mg/L程度までならば(1週間ぐらいで再び低下すれば)餌も食べ通常と変わらずに泳いでいることもあります。もちろんこの状態で水槽に新しい魚を入れた場合,数日で調子を落としたり死亡したりしますので,注意が必要です。

急性のアンモニア中毒ではショック症状,筋肉の痙攣,眼球の回転反射障害,異常な旋回遊泳等が現れ斃死します。これらの急性中毒症状は中枢神経系の障害によるものですが,病理組織学的変化は皮膚・鰓の上皮剥離,崩壊が認められる以外に顕著なものは認められません。

慢性中毒における症状は,呼吸器官,血液及び神経系に現れ,成長低下,感染症に対する抵抗性低下が見られます。鰓には強い粘液分泌とそれに続く粘液の減少,上皮細胞の肥大・増殖が現れ,さらに進行すると出血,壊死を生じます。

この水中生物に強い毒性を持つアンモニアを,ニトロソモナス属の細菌(亜硝酸バクテリア)によってアンモニアよりは毒性の弱い亜硝酸に変えることが,海水魚における濾過の第一段階となります。



2.亜硝酸

ニトロソモナスによって作られた亜硝酸は,海水中ではアンモニアと同様に,非解離型の亜硝酸と,解離した亜硝酸イオンの形で存在しています。亜硝酸もアンモニアほどではないものの,水中生物にとっての毒性は強いです。

非解離型の亜硝酸と解離した亜硝酸イオンの間には解離平衡が成り立っており,この状態は,pH,水温,硬度によって変化し,一定の亜硝酸濃度においてもpHが下がると毒性は強くなり,水中の塩素イオン濃度が高いと毒性は低下します。

体内に入ると,血液中(より正確には赤血球)のヘモグロビンのヘム鉄を2価から3価に酸化し,酸素運搬機能がないメトヘモグロビンを生成します。その結果,水中生物はメトヘモグロビン血症を起こして最終的には窒息死します。

水中の亜硝酸濃度は,0.15mg/L 程度であればなんとか許容範囲で,0.25mg/L 以上になるとデリケートな生物は危険です。0.5mg/L 以上だと非常に危険な状態で,この状態が続けば短期間で死亡します。

ただしアンモニアと同様に,これは立ち上がり終わった自分の水槽に新しい魚を加えた時の事です。立ち上げ時に入れている魚(当然新しい魚は加えない)や,貴方の水槽で長く飼われた魚ならば,徐々に亜硝酸濃度が上がっていった場合,1.0mg/L以上(この濃度が1週間程度継続しても)であっても餌を食べ元気なこともあります。

亜硝酸をニトロバクター属の細菌(硝酸バクテリア)によって毒性の弱い硝酸塩に変えることが,海水魚における濾過の第二段階です。



3.硝酸塩

硝酸塩に関しては,100mg/L程度では特に海水魚に影響を与えません。逆に定期的に換水していれば,濾過能力と飼育海水魚量のバランスが取れている場合,海水魚に影響を及ぼす程の量は蓄積しないと言えます。

ただし高濃度になれば,体表の粘液分泌昂進が起こり体表粘液細胞の増殖が見られます。このような条件が長期間続けば,体表の上皮細胞の変性と壊死が生じ,最終的には鰓の呼吸上皮の変性・壊死に伴う窒息と透過性の上昇による電解質流失によって死亡すると考えられています。

最初に述べたように,古典的な硝酸塩の除去は通常換水によって行われますので,1〜2か月に全水量の1/4〜1/3を換水してやれば問題は起きません。ただし,サンゴなどの無脊椎動物は硝酸塩も限りなく少ない方が良いため,サンゴ水槽等の濾過は硝酸塩を大量に生産する強制濾過方式ではなく,アンモニアを直接除去(飼育水中から出す)するベルリン方式等が使われます。

また,通性嫌気性細菌を利用して反硝化作用,または脱窒と呼ばれる硝酸塩を窒素ガスに変換させ,海水中から大気中に出す方式によって除去したり,海草水槽(レフジューム)を併設したりして定期的に海草を取り出すことで硝酸塩を飼育海水中から除去する方法等もありますが,あまりにも長期間水換えを行わないと水質変化で生体がダメージを受けることがありますので,定期的な換水をお勧めします。





この濾過における原理を理解しないと,いかなる大金を投じて立派な水槽システムを構築しても,海水魚を上手く飼育することはできません。逆を言えば,この原理さえしっかりと理解していれば,上に挙げたどのシステムを使っても海水魚を飼うことは問題なくできます。

理に叶ったシステムへの投資は,水槽のメンテナンスが容易になるというリターンを得られるため,投資結果を自分で判断することができる上,理解を深めれば逆に最低限のシステムでも海水魚飼育は十分楽しめるのです。

今ではアンモニアや亜硝酸を測定するテスターが各社から発売されていますので,これらを使用してきちんとアンモニア濃度や亜硝酸濃度の低下を確認してから,一番飼いたかった魚を水槽に迎えるとよいでしょう。また問題なく飼育できていても,定期的に水質をチェックしていれば,トラブルやアクシデントを初期に察知することも可能です。





戻る
inserted by FC2 system