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海水魚飼育の今昔




1960年代


まず海水魚の飼育方法を云々する前に,日本での家庭用海水魚飼育の流れを振り返ってみましょう。私が昔,海水魚業界のパイオニアの方に伺った話では,いわゆるホームアクアリウムでの海水魚飼育は1960年前後から普及しだしたようです。この頃は日本復帰前の沖縄が主たる供給先であり,比較的大きな魚が入って来ていたとのことです。他に台湾やシンガポール辺りからも多少輸入されていたようですが,沖縄から来る大きめの魚がメインですから,飼育には大掛かりな設備や予算が必要でした。したがって,ホテルや喫茶店などの商業施設がメインであり,よほど好きな人しか家庭で海水魚水槽を維持することはできなかったと聞いています。

1960年代も後半になるとフィリピンからも海水魚が輸入されるようになり,アデヤッコやイナズマヤッコ等,今では比較的ポピュラー種である西部太平洋産のヤッコ達が南海の珍魚として引っ張りだこだったとか。また驚いたことに,この頃既に紅海からも直輸入が行われていました。しかしその後アフリカや中東情勢の悪化によってシッパーがいなくなってしまい,10年以上も日本への輸入が途絶えたことを古いアクアリストならご存知かもしれません。さらに,1969年頃にはハワイと北米からの海水魚も日本に入って来たようです。手元の資料で明らかなのはクイーンエンゼルとフレンチエンゼルのみですが,おそらくブルーエンゼル,ロックビューティー,グレイエンゼル,ブラックバンデッドエンゼル等も輸入され始めたのでしょう。それと,やや荒目(4〜8mm程度)のサンゴ砂が輸入され,濾材として使われ,広まりだしたのもこの頃です。

私は偶々後年になって,1967年から1974年までの観賞魚雑誌を入手する機会に恵まれ一通り眺めましたが,1967年頃はカラーページなど僅かに数ページしかなく(そのうち海水魚となると1ページ程),ひたすら文字と白黒写真で誌面が構成されている状態で,なおかつ海水魚関係の記事など採集や海外遠征関係も含めて10ページもあれば多い方でした。昨今のマリンアクアリストであれば,おそらく誰も買わないのではないかと思ってしまう代物です。しかし今と異なり,水族館関係者や研究者以外の人が飼育に関しての情報を入手しようとすれば,紙媒体の資料しかなかった時代でしたから,当時のマリンアクアリストは雑誌やショップの人から知識を仕入れて試行錯誤を重ねたのでしょう。文字ばかりの雑誌をきちんと読んでみれば,濾過バクテリアに関してもある程度しっかりと説明されていますので,海水魚飼育に最も重要な濾過に関しての理解も可能でした。

おもしろいことに,1967年の雑誌には熱帯魚や海水魚の平均的な値段まで記載されています。ご丁寧に小,中,大に分けられており,一例をあげるとタテジマキンチャクダイが,小6,000円,中(おそらく未成魚から若魚)14,000円,大18,000円となっています。この値段を見ると,驚いたことに46年前からタテキンの値段はそれ程変わっていないことがわかります。この40年以上の物価上昇度合いから見ると,値段が据え置かれた海水魚の価値は凄まじく下落しているのです(当時大卒初任給が約26,000円でしたが,現在は20万円を超えています)。

この頃の飼育器具は,既製品のフィルターは底面式がせいぜいでしたが,ショップオリジナル的な上部フィルター(レイシーポンプ等との組み合わせで,比較的大きな水槽向け)や上部フィルター+底面フィルターの吹上式等も既に販売されており,飼育システムとしては現在でも十分に耐え得るものが既に存在していました。水槽はステンレスフレームが全盛ですが,総ガラス水槽やアクリル水槽もしっかりと販売されています。

さすがに飼育水槽の底に穴をあけるオーバーフロー式水槽は一般的では無かったようですが,雑誌に外付け塩ビ配管によるオーバーフロー水槽やサイド式濾過槽,底面フィルター類の自作に関する記事が連載されており,当時のマリンアクアリストは意外に飼育システムを自分で組み立てていたのかもしれません。注目すべきは西ドイツ(当時)サンダー社製のオゾナイザーがこの時期に日本で売られていることです,ただしオゾナイザー使用時に必ず併用するプロテインスキマーは売られていなかったようで,なぜオゾナイザーが当時日本で普及しなかったか,わかるような気もします。

これらの資料から分かることは,本や口伝でしか情報を入手できなかった1960年代は,各種飼育情報の入手が現在とは比べ物にならない程難しく,ショップ間の実力差が非常に大きくでてしまう時代だったと言えるでしょう。しっかりとした飼育ノウハウを持つショップに行きつくことが,最も重要だった時代とも言えるかもしれません。





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